ヌビア(民族)(読み)ぬびあ(英語表記)Nubian

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヌビア(民族)」の意味・わかりやすい解説

ヌビア(民族)
ぬびあ
Nubian

アフリカ、スーダンのナイル川流域のヌビア地方に住む東スーダン語を話す人々の総称。人口は60~100万(推定)。ヌビア地方とは、ナイル川のワディ・ハルファの第二急流からハルトゥーム付近の青ナイルと白ナイルの合流点までの一帯をさす。ヌビアの南のコルドファン語を話すヌバとは異なるが、ヌバ丘陵に住むヌビア人の一部はヌバとみなされることがある。ヌバとヌビアは語源が同一であり、古代エジプト語で「金(きん)」を意味する「ヌブ」にさかのぼると思われる。金はアスワンの南の地方で産出され、そのためこの地方は古代エジプト人によってヌビアとよばれ、住民はヌビア人として知られていた。古代からヌビア人は肌の色によって北部の「赤いノバ」と南部の「黒いノバ」に区別されていた。「黒いノバ」は今日のヌバの祖先と考えられ、彼らの社会組織、慣習、信仰などはアフリカ的要素が強い。「赤いノバ」が今日のヌビア人の祖先と考えられる。強いコーカソイド(白色人種)の身体的特徴を示しており、起源的にはネグロイド黒色人種)であるが、古代エジプト人やアラブ人、またトルコなどのアジア人との長い混血の歴史の結果と考えられる。ヌビアには古代からエジプトの影響を受けた国家、続いてキリスト教国家、イスラム国家などが勃興(ぼっこう)した。現在、彼らはバラブラ、ビルケド、ディリングなどいくつかの集団に分かれている。

 おもに農耕を行うが、牧畜を重視する集団もある。おもな作物雑穀ミレットソルガムスイカヒョウタンオクラゴマなど。出自はどの集団でも父系をたどる。居住様式はだいたい夫方居住であるが、結婚後の婚姻奉仕(ブライド・サービス)の時期に、妻方居住をとる集団もある。割礼は男女とも広く行われている。すべての集団で最近まで奴隷制が残されていた。

加藤 泰]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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