改訂新版 世界大百科事典 「ナギ」の意味・わかりやすい解説
ナギ
Podocarpus nagi (Thunb.) Zoll.et Moritz.
別名チカラシバ。針葉樹としては珍しく広い葉をもつマキ科の常緑高木。高さ30m,直径1mに達し,幹の樹皮は紫褐色で,薄くはがれた跡が黄赤色を呈する。葉は十字対生するが,横枝では1節ごとに90度ずつねじれるので2列状となる。葉身は楕円状披針形で両端が細まり,長さ5~7cm,20~30本の平行脈がある。雌雄異株で,花は5月ごろ前年枝に腋生(えきせい)し,雄花は円柱形で2~3個ずつ束生,雌花は単生し,基部に数枚の鱗片がある。種子は10月ごろ熟し,藍青色の套被(とうひ)におおわれ,球形で径約15mm,同属のイヌマキのように花托が肥大しない。三重県南部または山口市の旧小郡町を北限とする太平洋側に点々と自生し,台湾や中国の中・南部に及ぶ。古くから熊野信仰と結びついて霊木として暖帯各地の神社に植えられたらしい。奈良春日神社の純林には樹齢1000年になる木もあるが,同じく植栽と考えられている。ナギが凪(なぎ)に通じ,しかも平行脈の葉が強靱で引っ張っても切れないところから,婦人が鏡の裏に収めて家庭の円満を願い,漁師も尊んだ。暖地では庭木や並木としても植える。皮付丸太は床柱に珍重され,樹皮のタンニンは皮のなめし剤や染料に,種子の油は神社の灯用に供された。
執筆者:濱谷 稔夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報