トキソプラズマ脳炎

内科学 第10版 「トキソプラズマ脳炎」の解説

トキソプラズマ脳炎(原虫感染症)

(1)トキソプラズマ脳炎(toxoplasmosis)【⇨4-15-4)】
病原体
 Toxoplasma gondii.経口感染で腸管から侵入した原虫は,おもに血行性で全身に播種され,骨以外のすべての組織・臓器に感染し,寄生する.先天性トキソプラズマ症では,妊婦のトキソプラズマ感染(特に初感染)により,血行性に急増型虫体が経胎盤感染して胎児に感染する.症状としては網脈絡膜炎,小眼球症,水頭症や小頭症,精神・運動障害,脳内石灰化像,肝脾腫脹,黄疸リンパ節腫脹発疹,発熱などである.
 後天性トキソプラズマ症として,免疫能正常者が感染した場合には,普通は無症状に経過するが,ときに斑点状丘疹,肝・脾腫を呈する.まれにびまん性,髄膜脳炎などの神経症状を呈する.
 免疫不全患者,AIDS患者では代表的日和見感染症であり,慢性潜在性感染の再燃から発症する.病変脳膿瘍が多く,片麻痺,失語,視野障害,脳神経麻痺,半側感覚障害,痙攣,人格障害,錐体外路症状,小脳症状などの巣症状が頭痛や脳圧亢進症状を伴って,数日から数週間の亜急性の経過で出現する.ときに巣症状を伴わず,急速に致死的となるびまん性脳炎を呈することがある.
診断
 血清学的診断,トキソプラズマ原虫の分離,組織学的診断,髄液PCRによる原虫の検出などで診断する.免疫不全者では脳CT/MRIでは輪状に造影される病変(図15-7-14)としてみられ,大脳基底核,皮髄境界部が好発部位である.髄液検査では,蛋白軽度から中等度の上昇,リンパ球優位の細胞増加,糖正常を示す.髄腔内でのトキソプラズマ特異IgGあるいはIgM抗体産生の証明は脳炎の診断に有用である.
治療
 AIDSに伴う脳炎では,初期標準治療としてピリメタミンとスルファジアジンの併用投与,スルファジアジンが使用できない場合にはピリメタミンとクリンダマイシンの併用投与でも前者と同等の効果が得られる.AIDS患者では強力な抗レトロウイルス療法を早期に併用する.初期治療が奏効した場合,免疫再構成が生じない限り,終生のピリメタミンとスルファジアジン,ロイコボリンの併用投与による維持療法が推奨されるが,初期治療が奏効し,脳炎の徴候がなく,CD4(陽性)Tリンパ球>200 /μLが6カ月以上持続した場合に,維持療法が中止できると考えられる.[三浦義治・岸田修二]
■文献
藤井明弘,栗山 勝:トキソプラズマ脳炎.臨床神経科学,28: pp316-318,2010.
岸田修二:トキソプラズマ症.日本臨牀 領域別症候群シリーズNo26神経症候群―その他神経疾患を含めて―,pp650-658,日本臨牀社,大阪,1999.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報