デナリウス貨(読み)デナリウスか(英語表記)denarius

翻訳|denarius

改訂新版 世界大百科事典 「デナリウス貨」の意味・わかりやすい解説

デナリウス貨 (デナリウスか)
denarius

古代ローマ銀貨。前3世紀末のポエニ戦争の頃に発行され始めた。当初1/72ポンド(約4.55g)の重量があり,10枚の青銅貨アスasの価値を有した。やがて共和政期を通じてデナリウス貨は徐々に重量を減らし,ついには3.89gまでになった。この頃までにアス貨も本来の半分の価値しかもたなくなっていたので,グラックス兄弟の時代にはデナリウス貨は16枚のアス貨と同等と見なされた。その後も鋳貨の価値減少が続いたが,両者の交換比率に変化は見られなかった。アウグストゥス帝は通貨制度を修正し,その安定をはかった。そこでは,金貨アウレウスaureusの金含有量は1/42ポンド,銀貨デナリウスの銀含有量は1/84ポンドと定められ,両者の交換比率は1:25とされた。1世紀中葉ネロ帝治世の通貨改革では,金貨と銀貨の品位がおのおの1割ずつ低下しながら,その交換比率は1:25のままにしておかれた。しかし,その後はアウレウス貨の品位がほとんど変化しなかったにもかかわらず,デナリウス貨の品位は長期低落傾向を示す。そこで,名目価値と実質価値との乖離のために強制的な交換関係が設定され,ローマ国家は3世紀前半までこの関係を維持しようと努めた。やがて軍人皇帝時代になると,たんに銀箔をかぶせた銅貨にすぎなくなるほどに下落した。そのため,ディオクレティアヌス帝の〈最高価格令〉では純粋に名目上の価値として現れている。6世紀ころにはソリドゥス金貨の6000分の1として表示されている。その後もとくにエジプトにおいて銅貨の単位として用いられたために,今日でも中近東地域でデナリウスに由来する貨幣単位ディーナールを使用する国々が見られる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「デナリウス貨」の意味・わかりやすい解説

デナリウス貨
でなりうすか
denarius ラテン語

ローマ時代の銀貨。帝政初期の通貨体系においては、金貨アウレウスの25分の1、青銅貨アスの16倍の価値があった。紀元前3世紀末に鋳造が開始され、当初の量目は4.55グラムであった。金貨の恒常的な鋳造が行われていなかった共和政期にはローマの基本的な通貨の地位を占め、帝政期に入ってアウレウス貨が帝国の本位通貨になったのちも、経済活動においては中心的な役割を演じていた。しかしその品位はしだいに下落し、3世紀中葉には薄く銀をかぶせた銅貨にすぎなかった。また、3世紀の深刻なインフレーションと通貨体系の混乱のなかでデナリウス貨は重要性を失い、アウレリアヌス帝(在位270~275)が新しい銀貨を導入してからは、デナリウスという語が価値単位として用いられるにすぎなくなった。

坂口 明]

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世界大百科事典(旧版)内のデナリウス貨の言及

【銀】より

…技術習得のために外国からアウクスブルクへ来住する金銀細工師もいたという。 中世初めカール大帝(在位768‐814)のときに,1リブラ(ポンド)=20ソリドゥス(シリング)=240デナリ(ペンス)の銀本位の幣制が成立し,ビザンティン帝国やイスラムの金貨に対して,デナリウスdenarius銀貨と半デナリウス銀貨が造られた。12~13世紀に大型のグロッシェンGroschen銀貨がイタリアで造られ,ドイツの銀産額が増大した15世紀末以来,ターラーTaler貨(ヨアヒムスタール製)が造られた。…

【貨幣】より

…前269年であり,ピュロス戦争後のことである。このデナリウス貨(10アスに当たる)は表面に女神ローマの頭部と価格の数字(ギリシア貨幣は価格を表記しない)を,裏面には通商の神なるカストルとポリュデウケスの双生神と〈ロマノ〉の文字を表した。なお小額の数種の銀貨があり,青銅貨も補助貨として広く流通した。…

【ディーナール】より

…イスラム世界における金貨の重さおよび金額の単位であると同時に,金貨そのものの呼称。ローマ世界で用いられたデナリウス貨に由来する。最も古いディーナール金貨は,ウマイヤ朝のアブド・アルマリク(在位685‐705)時代にダマスクスで鋳造された。…

【ローマ】より

徴税請負[ローマ]【市川 雅俊】
[貨幣]
 前3世紀初頭,ローマによるイタリア半島支配が確立した頃,貨幣三人委員が設けられ,規格の定まった青銅貨が鋳造されるようになった。その後,ギリシア貨幣の流通力との対抗上,銀貨の鋳造が始まり,前3世紀末のデナリウス銀貨(デナリウス貨)の発行によって通貨制度の基礎が築かれた。地中海諸地域への進出の過程において,デナリウス銀貨の量目が徐々に減少していき,流通力の安定性が揺らぐ傾向がみられた。…

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