日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
シュミット(Wilhelm Schmidt)
しゅみっと
Wilhelm Schmidt
(1868―1954)
主としてオーストリアで活躍したドイツ生まれの民族学者。いわゆるウィーン学派の総帥であり、また文化圏説の大成者。カトリック教神言会に属する神父で、多くの宣教師民族学者を養成し、民族学、言語学のための国際的な専門誌『アントロポス』を創刊した。ウィーン大学で講義をし、その後1941年からスイスのフリブール大学教授となった。初め言語学者として出発し、東南アジア、オセアニアにおける語族の分類、設定に功績があり、1926年には世界の言語の概説を著した。しかし、すでに1910年ごろから研究の主力は民族学に向かい、民族学の立場から人類の初期文化史の大綱を再構成することに努力した。F・グレープナーがオセアニアにおいて設定した文化圏の体系を全世界的に拡大発展させ、グローセErnst Grosse(1862―1927)が提唱した経済形態と家族形態の対応の説も受容し、さらに進化主義からは発展段階の概念を受け継いだ壮大な体系をつくったが、これは今日学問的には完全に崩壊している。宗教の起源を至高神崇拝に求める説は大著『神観念の起源』全12巻(1912~1955)で展開された。ほかにコッパースWilhelm Koppers(1886―1961)との共著『民族と文化』(1924)がある。
[大林太良 2018年6月19日]
『シュミット著、山田隆治訳『母権』(1962・平凡社)』▽『シュミット、コッパース著、大野俊一訳『民族と文化』上下(1970・河出書房新社)』