1960年製作のアメリカ映画。アルフレッド・ヒッチコックが《北北西に進路を取れ》(1959)と《鳥》(1963)の間につくった作品。三面記事的な実話をもとにして書かれたロバート・ブロックの小説が原作で,10年前に母とその愛人を殺害し,母の死体を墓から掘り出して死体といっしょに暮らしている息子の,〈異常心理〉による殺人事件を描いた白黒の〈スリラー映画〉,もしくは〈ショッカーshocker映画〉である。主演アンソニー・パーキンス。1955年から61年にかけテレビ映画シリーズ〈ヒッチコック劇場〉〈ヒッチコック・サスペンス〉の製作を手がけたヒッチコックは,劇場用映画をテレビ番組と同じ条件でつくる実験を試み,テレビのスタッフを使って製作費80万ドルでこの映画を仕上げたという。シェークスピアの芝居と同じように,映画は観客のためにつくられるべきだと考えるヒッチコックが,〈大衆のエモーションを生み出すために映画技術を駆使する〉ことをみごとに達成して成功した映画であり,異常心理犯罪を扱った映画の代表作の一つである。〈もっとも視覚的でシネマティックな映画〉(ピーター・ボグダノビッチ)とも評価されている。原作の,シャワーを浴びていた女がとつぜんナイフで惨殺されるというイメージの唐突さだけで映画化に踏みきったといわれる浴室のシーンは,わずか45秒ながらカメラの位置を70回かえて7日間かけ(赤い血を見せたくないため白黒にしたといわれる),〈女性の肉体のタブーの部分〉はまったく見せずに,巧みなモンタージュで残忍さとエロティシズムを表現している。なお,この映画は極端な秘密主義のもとで製作が進められ,公開にあたってヒッチコックが,映写開始後は観客を絶対に入場させないことを条件にしたことも語りぐさになっている。
執筆者:柏倉 昌美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…いずれにしても,怪奇映画は50年代のSF映画の台頭につれて影を潜めるが,これは,放射能や科学実験による突然変異としての生物の巨大化(《放射能X》1953,《ハエ男の恐怖》1958,など)や,人間が縮小したため相対的に生物の巨大化と同じパニックに陥る(《縮みゆく人間》1957)といった設定で,つまりはSFがモンスターの肩代りをしたともいえる。
[1960年代以降]
60年代は,毒々しい色彩効果によるエロティシズムとサディズムを加味したイギリスのハマー・プロ作品(テレンス・フィッシャー監督,クリストファー・リー,ピーター・カッシング主演《吸血鬼ドラキュラ》1958,等々)と,一連の〈エドガー・アラン・ポー物〉によって,異常心理がらみの幻想劇という独自のイメージを繰り広げたアメリカのAIP作品(ロジャー・コーマン監督,ビンセント・プライス主演《アッシャー家の惨劇》1960,等々)が活況を呈する一方,フランスではジョルジュ・フランジュ監督《顔のない眼》(1960),ロジェ・バディム監督《血とバラ》(1960)といったポエティックな怪奇幻想の心理劇がつくられたが,もっとも注目すべきはヒッチコックの《サイコ》(1960)という真にエポックを画する恐怖映画が生まれたことで,以後の怪奇,SF,恐怖映画のジャンルは,すべて〈サイコ以後〉の名でくくることも可能なくらい決定的に《サイコ》の,ヒッチコックの影響を受けることになる。ウィリアム・キャッスル監督《第三の犯罪》(1961),《血だらけの惨劇》(1964),ロバート・アルドリッチ監督《何がジェーンに起ったか?》(1962)から1970‐80年代の〈モダン・ホラー・ムービー〉(怪奇的なムードで話を運び,結末のどんでん返しを利かせたものが多い)に至るまで,そうである。…
※「サイコ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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