日本大百科全書(ニッポニカ) 「ガルシア・ロルカ」の意味・わかりやすい解説
ガルシア・ロルカ
がるしあろるか
Federico Garcìa Lorca
(1898―1936)
スペインの詩人、劇作家。6月5日、グラナダ県の小村フェンテ・バケーロスの裕福な農家に生まれ、この村で幼少年期の大半を過ごし、11歳のとき家族とともにグラナダ市に移る。中高等教育(バチリエラート)修了後、地元の大学で文学、法律を学びながら青年期を送り、1919年マドリードに出てから28年まで、おもに「学生の家」で勉学の青春時代を過ごす。この間、エドワルド・マルキーナ、ルイス・ブニュエル、サルバドール・ダリら、優れた芸術家仲間との交友関係をもった。29年なかばから気分転換のためにアメリカを訪れ、キューバを経て翌年秋に帰郷後、学生劇団「ラ・バラッカ」を結成、文筆活動のかたわら、各地を巡り演劇の地方公演に情熱を注いだ。詩作、劇作のみならず、演出も手がけ、講演旅行にも出かけ、音楽、絵画にも才能をうかがわせる多才な人物であった。36年8月19日、グラナダ市郊外ビスナール村でファランヘ党員に銃殺され、内戦初期犠牲者として38歳の生涯を終えた。
郷土アンダルシアの追憶を主題にした処女詩集『詩の本』(1921)は詩人ロルカの資質を予見させる作品。自ら「最良の本」とよんだ代表的詩集は『ジプシー歌集』(1928)で、アンダルシア民衆の慣用的隠喩(いんゆ)を使ってスペインの伝統的な詩型のなかにアンダルシアを歌い込めた。ほかに、同地方の民俗音楽の魂を再生した『カンテ・ホンドの歌』(1931)、アメリカ旅行中に見聞した情景を歌った『ニューヨークの詩人』(メキシコで1940年死後出版)など。劇作では『すばらしい靴屋の奥さん』(1930)、『ドン・ペルリンプリンがお庭でベリーサを愛するお話』(1931)など。いずれも若い女と老人の夫という人物設定で、楽しさのなかにも詩的感動を内包した軽い小品。また、史実による愛と自由のために死ぬ女主人公の『マリアナ・ピネーダ』(1927)、裏切った婚約者を待ち続ける老婦人に託して、スペイン社会の偽善と気どりを描く『ドーニャ・ロシータ、もしくは花の言葉』(1935)などの詩劇がある。しかし、代表的戯曲としては、農村を舞台に女たちのさまざまな本能の愛が引き起こすドラマで、三大民衆悲劇とよばれる『血の婚礼』(1933)、『イエルマ』(1934)、『ベルナルダ・アルバの家』(1936年脱稿、45年アルゼンチンで初演)の3作品がある。
[菅 愛子]
『I・ギブソン著、内田吉彦訳『ロルカ・スペインの死』(1973・晶文社)』▽『荒井正道・長南実・鼓直・桑名一博他編『ガルシーア・ロルカ 1917―1936』全3巻(1973~75・牧神社)』▽『小海永二著『ガルシーア・ロルカ評伝』(1981・読売新聞社)』▽『I・ギブソン著、内田吉彦・本田誠二訳『ロルカ』(1997・中央公論社)』▽『川成洋・坂東省次・本田誠二編『ガルシア・ロルカの世界――ガルシア・ロルカ生誕100年記念』(1998・行路社)』