カスピ海領有権問題(読み)かすぴかいりょうゆうけんもんだい

知恵蔵 「カスピ海領有権問題」の解説

カスピ海領有権問題

中央アジアのカスピ海領有権を巡る問題。沿岸5カ国の首脳が2018年8月に「カスピ海の法的地位に関する協定」を結び、20年以上続いてきた領有権問題に一定の合意が得られた。詳細は公表されていないが、骨子は次の通り。(1)沿岸から15カイリ(約28キロメートル)を領海とし、25カイリを排他的漁業水域とする。(2)領海外でも沿岸国以外の軍事活動は認めない。(3)領海外の地下資源の分割やパイプライン等の設置は、当該国間で協議する。
カスピ海は、世界最大の湖(塩湖)とされる。面積は入水量によって変動するが、約37万平方キロメートルで、日本の国土面積とほぼ等しい。ヨーロッパとアジアの接点に当たり、古来より東西を結ぶ水上交通路として重要な役割を担ってきた。地下資源の推定埋蔵量も石油500億バレル、天然ガス8兆4千億立方メートルと豊富で、またキャビアを産卵するチョウザメの生息地としても知られる。
領有権問題が起こったのは、1991年のソ連崩壊から間もなくのこと。トルクメニスタンカザフスタンアゼルバイジャンが独立したため、ロシア、イランを含む5カ国が沿岸国となり、境界線の設定から航行権・漁業権・資源採掘権を巡る争いまで複雑化した。特に独立3カ国とイランが、カスピ海を「海」「湖」のどちらと見なすかで対立。「海」と見なすと国連海洋法条約が適用され、沿岸線の最も短いイランが不利となる。2002年に始まった5カ国の首脳会談で、イランは「湖」という主張を譲らず、他の4カ国に権益の均等分割を求めた。しかし、ロシア、カザフスタン、アゼルバイジャンの3カ国が中間線を境界とすることで合意。国際的な孤立を回避したいイランが14年の首脳会議で均等分割案を退け、大幅に譲歩した。18年の首脳会談では、懸案だった地下資源の採掘権が当事国間の協議となったこと、また沿岸5カ国以外の軍事行動が禁止され、安全保障上の不安が取り除かれたことで、米トランプ政権に揺さぶられているイランのロウハニ政権が妥協しやすくなったと見られる。ただし、「海」「湖」の定義は明確にされず、細部の問題は継続協議となる模様。

(大迫秀樹 フリー編集者/2018年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報