アクリルアミド中毒

内科学 第10版 「アクリルアミド中毒」の解説

アクリルアミド中毒(ガス・その他の工業中毒)

(3)アクリルアミド中毒
 アクリルアミド塗料,紙力増強剤,接着剤,架橋剤などに用いられる.モノマーは神経毒性を有するが,重合されポリマーになると毒性がなくなる.中毒はおもにモノマーを扱う工場や環境汚染などで発生する. 末梢神経生検では大径線維を中心に軸索変性を示す. 急性の大量暴露では,精神錯乱幻覚,傾眠,昏睡などの精神症状や高度の小脳性体幹失調などがみられ,数日後に末梢神経傷害が出現する.低濃度の長期間暴露では,運動神経に先立って深部感覚,触覚や筋紡錘からの求心性線維障害が生じ,四肢末端のしびれ,発汗過多,皮膚の発赤,続いて振動覚低下,筋力低下,不安定歩行がみられる.神経伝導速度は遅延する.暴露中止により症状は徐々に改善する.治療対症療法を行う.[熊本俊秀]
■文献
Harris J, Chimelli L, et al: Nutritional deficiencies, metabolic disorder and toxins affecting the nervous system. In: Greenfield’s Neuropathology, 8th ed (Love S, Louis DN, et al eds), pp 675-731, Hodder Arnold, London, 2008.上條吉人:臨床中毒学(相馬一亥監修),医学書院,東京,2009.Prockop LD, Rowland LP: Occupational and environmental neurotoxicology. In: Merritt’s Neurology, 11th ed (Rowland LP ed), pp1173-1184, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2005.

アクリルアミド中毒(有機物質中毒)

(6)アクリルアミド中毒(acrylamide poisoning)
定義・概念
 アクリルアミドは紙の強度増強,凝集剤,電気泳動の支持体などに広く使用されており,職業性中毒のほか,かつては土壌硬化剤としても用いられ,井戸水の汚染により集団中毒が発生したこともある.
病理
 末梢神経の軸索変性を認め,大径線維優位で特に遠位部に強い.重症例では中枢神経(脊髄後策,脊髄小脳路,錐体路)にも変性をきたす.
病態生理
 アクリルアミドのモノマーは強力な神経毒性を示す.水溶性であり,経気道・経口・経皮的に吸入され,末梢神経軸索骨格蛋白と結合して軸索障害をきたす.
臨床症状
 低濃度のアクリルアミドの長期暴露による中毒では感覚優位の末梢神経障害が前景にたち,四肢末梢に異常感覚,表在・深部感覚鈍麻,発汗過多,腱反射の低下,ときに筋力低下・筋萎縮もみられる.短期間に大量のアクリルアミドに暴露された例では精神神経症状として,精神錯乱,幻覚,集中力低下,体幹失調がみられ,時間経過とともに末梢神経症状も認められるようになる.
検査成績
 感覚神経伝導速度の遅延あるいは早期に誘発不能となる.運動神経活動電位の低下をみる.
治療
 特異的な治療法はないが,急性中毒では重症例でもほとんど後遺症なく回復する.慢性中毒で重症例は感覚障害・筋萎縮が長期間持続する.[内野 誠]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報