日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
つかむ/動的把握と道具の手
つかむどうてきはあくとどうぐのて
手は、つまんだり握ったりして物を保持するばかりでなく、保持した状態でその物を操ることにより、ある目的を達成する能力をもっている。後者が「動的把握」である。この動的把握は、日常生活のなかでしばしばみられるものである。
たとえば鋏(はさみ)で物を切る動作では、鋏の柄(え)は母指と他の4指で支えられ、しかも鋏を開いたり閉じたりする運動が加わる。この運動には母指球筋や長母指伸筋が必要な力を提供し、鋏の方向づけには手首の屈曲・伸展や前腕の回内・回外運動が働く。
また、私たちは食事のときに箸(はし)を巧みに操っているが、1本は環指によって第1指間腔(くう)に挟まれて静止し、他の1本は母指や示指・中指による三指間つまみによって保持される。それと同時に、微妙な運動に作用する手筋群によって、箸の挟む働きが完成していくのである。
このほか、手それ自体が道具の役割を果たすこともある。コンピュータのキーをたたいたり、ピアノを弾いたりするときの手は、まさに道具ともいえる。このとき、それぞれの指は骨間筋と深指屈筋が協調して作用し、キーをたたくハンマーの役割を果たしているのである。
[内田 謙]
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