骨髄腫腎

内科学 第10版 「骨髄腫腎」の解説

骨髄腫腎(全身疾患と腎障害)

概念
 多発性骨髄腫は単クローン性の形質細胞が骨髄内で増殖する腫瘍性疾患である【⇨14-10-20)-(3)】.約半数の患者に腎機能障害がみられる.さまざまな機序による腎障害を生じるが,尿中の単クローン性免疫グロブリン軽鎖(Bence Jones蛋白,BJP)が尿細管管腔内で円柱(cast)を形成し,尿細管閉塞をきたす病態が骨髄腫腎であり,cast nephropathyともよばれる.多発性骨髄腫では骨髄腫腎のほかにも単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)が原因となり,Fanconi症候群,ALアミロイドーシス,単クローン性免疫グロブリン沈着症,過粘稠症候群などの腎障害を生じる.さらに高カルシウム血症,高尿酸血症,非ステロイド系抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)などの腎障害も加わり,複雑な病態を形成することが多い.
病因・病理
 免疫グロブリン軽鎖は分子量約2.5万であり,糸球体係蹄壁より濾過され,大部分が近位尿細管で再吸収される.多発性骨髄腫で大量の軽鎖が産生されると,近位尿細管で再吸収しきれないBJPが,Henle上行脚より分泌されるTamm-Horsfall蛋白と特異的に結合し,遠位尿細管や集合管内で凝集して円柱を形成する.光顕では無構造なヒアリン様物質からなる円柱が尿細管管腔を閉塞している像がみられ,しばしば円柱を取り囲んで多核巨細胞がみられる.円柱形成に促進的に働く因子として,脱水,感染,高カルシウム血症,造影剤,NSAIDs,利尿薬などがある.IgD型やBence Jones型の多発性骨髄腫では遊離軽鎖が多く,骨髄腫腎を起こしやすい.
臨床症状・検査成績・診断
 骨髄腫腎では腎機能低下をきたしやすく,円柱形成の促進因子も加わり,しばしば急性腎不全を呈する.高齢者で進行性に腎機能が低下する場合,血清蛋白分画のMピークの有無をチェックすることが重要である.特に腰痛,高蛋白血症,高カルシウム血症を伴う場合は,骨髄腫腎を念頭におく.尿検査ではBJPの存在により大量の蛋白尿が尿定量検査でみられるが,試験紙法による尿定性検査では陰性か弱陽性である.これは試験紙法ではアルブミンをおもに検出し,BJPの検出感度が低いことによる.この尿定性と定量の乖離は,BJPの存在を疑わせる根拠となる.骨髄腫腎の確定診断には腎生検が必要であるが,多発性骨髄腫の診断がすでになされており,BJP主体の蛋白尿を伴う腎機能障害の場合は,腎生検をせずに治療を優先する.
治療・予後
 骨髄腫腎では腎障害の進展を阻止するために,円柱形成を防ぐことが重要であり,生理食塩水などを点滴し脱水を予防し,BJPの尿細管毒性軽減のため尿のアルカリ化を行う.高カルシウム血症が存在する場合は,補液やビスホスホネートの投与を行う.これらと合わせて多発性骨髄腫に対する化学療法によりBJPの産生を抑制することが重要である.急性病変の場合は,治療が奏効すると腎機能の改善がみられることが多い.[廣村桂樹・野島美久]
■文献
安倍正博:多発性骨髄腫.日内会誌,100: 1275-1281, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報