Fanconi症候群

内科学 第10版 「Fanconi症候群」の解説

Fanconi症候群(近位尿細管疾患)

(1)Fanconi症候群
概念
 近位尿細管の機能異常を直接の原因として引き起こされる汎アミノ酸尿,低リン血症,低尿酸血症,腎性糖尿,近位尿細管性アシドーシスなどの一連病態総称である.1930年代にFanconiらが,くる病・低身長・尿糖・低リン血症などを呈する小児症例を報告し,その後その病因がきわめて多岐にわたることが知られ,疾患名としてよりもFanconi症候群とよばれるようになった.
病態生理
 近位尿細管での種々の物質輸送の障害により,尿中への排泄亢進することが病態の基本である.近位尿細管における物質輸送は血管側細胞膜に存在するNa-K-ATPaseにより生み出された細胞内外のNa濃度格差に連動して,HCO3(炭酸水素),グルコース,リン酸,アミノ酸が大量に再吸収されるが,Fanconi症候群ではさまざまな原因により再吸収機能が全般的に障害される.Fanconi症候群の原因としては先天性のものと後天性のものとがある(表11-9-1).先天性のものでは代謝に関連する遺伝子異常による疾患が多い.重要なものではDent病,シスチン蓄積症,チロシン血症,ガラクトース血症,Wilson病,グリコーゲン蓄積病,ミトコンドリア病などである.それぞれの病因遺伝子をもつ独立した疾患であるが,その病態において近位尿細管の全般的機能低下を起こし,Fanconi症候群を発症する.たとえば比較的頻度が高いシスチン蓄積症ではライソゾーム膜のシスチン輸送体の遺伝子の変異により,ライソゾームにシスチンが蓄積して近位尿細管の機能障害が起こる.その結果,細胞内Naが上昇しNaと連動して再吸収されるグルコースやアミノ酸の再吸収が低下し,尿中への排泄亢進が起こる.機能異常が長期間続くと近位尿細管の変成・荒廃が起こり腎不全に至る.
 後天的要因としては薬物テトラサイクリン,アミノグリコシド系抗菌薬,バルプロ酸など)や重金属による近位尿細管障害やアミロイドーシスをはじめとする全身疾患に付随して起こる近位尿細管障害により発症することが多く,先天性との違いは成人に多い点である.
臨床症状
 多尿,小児期の成長障害(低身長),糖尿,高リン尿,高尿酸尿,汎アミノ酸尿,蛋白尿(低分子蛋白尿),高重炭酸尿などの近位尿細管機能障害がみられ,その結果として血清リン,尿酸,炭酸水素イオン低値(酸血症)がみられる.小児では尿へのカルニチン排泄の亢進,活性型ビタミンD産生障害,くる病による骨変化もみられる.シスチン蓄積症は生後6~12カ月頃にFanconi症候群を発症し,脱水による発熱を繰り返すことが診断の契機となる.
診断
 尿・血液所見から診断は比較的容易である.小児領域では成長障害,くる病の症状が特徴的である.遺伝子診断が可能になってきている.
治療
 後天性のものでは,原因疾患の治療を優先する.薬物・重金属などが原因の場合は,中止・除去によりFanconi症候群の改善・治癒を期待できる.低リン血症などの電解質異常にはできるだけ経口的に補充療法を行う.薬物療法は代謝性アシドーシス,低リン血症を正常化し,成長障害,骨塩量の低下,骨折などの合併症を予防あるいは治療することを目的とする.アシドーシスを補正するためには一般に炭酸水素イオンとして5~15 mEq/kg/日による大量のアルカリが必要である.ただし大量のアルカリ投与は集合管へのNa負荷とアルドステロン作用の結果低カリウム血症を増強するので,カリウムの補充や,ヒドロクロロチアジドなどの利尿薬を併用して必要なアルカリ量を減らすことができる.重症例では,以上の治療にてもアシドーシスを完全に補正できない.[寺田典生]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報