飢え(ハムスンの小説)(読み)うえ(英語表記)Sult

日本大百科全書(ニッポニカ) 「飢え(ハムスンの小説)」の意味・わかりやすい解説

飢え(ハムスンの小説)
うえ
Sult

ノルウェーの作家ハムスンの長編小説。1890年刊。欧米には珍しい私小説的作品で、貧しい文学青年のその日暮らしの生活をたどるだけで、筋もなく社会生活も描かれていない。机一つない間借りの部屋、それも間代がたまってぐあいが悪く、主人公は公園のベンチ原稿を書こうとするが、インスピレーションはわかない。食い詰めて、果ては犬にやるのだといって肉屋から骨をもらってしゃぶるが嘔吐(おうと)してしまう。まれに原稿が売れても貧しい友におごったりして、たちまち生活に窮するが、気まぐれの詩人気質(かたぎ)はそんな無償の戯れをやめない。最後は万策尽きて貨物船の火夫としてアメリカへ渡ることになるが、主人公は依然として昂然(こうぜん)としている。すばらしく弾力のある筆致と不屈のロマン精神は世界を驚倒させた。

[山室 静]

『山室静訳『飢え』(『ノーベル賞文学全集4』1971・主婦の友社)』『宮原晃一郎訳『飢え』(角川文庫)』

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