日本大百科全書(ニッポニカ) 「雪(地歌、箏曲)」の意味・わかりやすい解説
雪(地歌、箏曲)
ゆき
地歌、箏曲(そうきょく)の曲名。端歌(はうた)物。流石庵羽積(りゅうせきあんうせき)作詞、峰崎勾当(こうとう)作曲。作詞者の羽積は1782年(天明2)刊の『歌系図(うたけいず)』の編者であるが、同書刊行後にできたものらしく、初出は1789年(寛政1)刊の『今古集成新歌袋』である。また地歌の稽古(けいこ)本『歌曲時習考(さらえこう)』には、「南妓ソセキ(一説にリセキ)の事を作る」と添え書きがある。曲想から推して、大坂南地の芸妓(げいぎ)が男に捨てられて遁世(とんせい)したのではなく、自分に上り詰めて罪を犯した男を思って、女が罪滅ぼしに尼法師になったとみる解釈も成り立つ。「夜半(よわ)の鐘」のあとの雪の夜の鐘の音を表す合の手は、通常「雪の手」または「雪の合方(あいかた)」とよばれ、その旋律は他流の三味線音楽や歌舞伎(かぶき)の下座(げざ)音楽に凍夜または雪景の場面を連想させる手段として、数多く効果的に活用されている。
[林喜代弘]