日本大百科全書(ニッポニカ) 「集魚灯」の意味・わかりやすい解説
集魚灯
しゅうぎょとう
fish attracting lamp
fishing lamp
fish attracting light
fishing light
魚類を集めるための灯火で、副漁具の一種。走光性のある魚類に火光を用いて魚を集めて漁をする漁法は、江戸時代から行われてきた。当初は篝火(かがりび)、松脂(まつやに)などが使用されていたが、明治・大正時代にはアセチレンガス、石油灯などが使用された。ついで電池式の電球となり、本格的に集魚灯漁業として発展したのは、石油やガソリン駆動による発電機、または主機直結用発電機が使用されるようになった昭和10年代からである。
一般家庭においても省エネルギーの立場からLEDなどの照明器具が普及しつつあるが、漁業用としても省エネルギー化を図るべく各種の集魚灯用電球が考案されている。各種の光源は、魚類の対光行動、船内電源との関係、水上灯または水中灯としての使用上の問題点などが勘案され、集魚灯用としての発光効率、光色、耐用時間、形状および取扱い上の難易度などの特性が考慮される。
現在使用されている集魚灯の光源を発光原理から分類し、光源の構造、特性などの概要を説明する。
(1)白熱電球 広く普及しているのが白熱灯で、使用率がもっとも高い。白熱電球は、フィラメントを高温に白熱させ、その熱放射によって可視光を出す光源で、電球に加える電圧を変化させるとフィラメント温度、電流、光束、効率、耐用時間が大きく変化する。
(2)ハロゲン電球 微量のハロゲン物質を含む不活性ガスを封入し、ハロゲン物質の化学反応を利用して、蒸発したタングステンをふたたび元のフィラメントに戻し、電球の黒化を防止した電球である。白熱電球より高出力で、横に広い配光は投光用照明に適している。
(3)蛍光灯ランプ ガラス管の内壁に蛍光塗料を塗布して点灯すると、放電によって紫外線が発生し、蛍光体によって紫外線が光に変化して放射される。管内で発生する紫外線は同じでも、蛍光体の種類によって自由な波長を得ることができるので、使用海域の水色、魚類の走光性に合致した波長(色光)を選択することができる。
(4)水銀ランプ 高圧水銀蒸気中の放電による発光を利用した高圧放電ランプで、発光管とそれを保護する外管の二重構造となっている。発光効率は白熱電球の約3倍で、耐用時間も1万時間と長く白熱電球の約10倍もあり、安定している。
(5)メタルハライドランプ 高効率化と高演色を兼ねた水銀ランプの一種であるが、省燃油性の高い放電灯として注目され、水銀ランプとは別にメタルハライドランプと名づけられた。これは、従来の水銀ランプの発光管内に、金属ハロゲン化物を封入した光源で、ナトリウム、インジウム、タリウム、スカンジウム、ジスプロシウム、トリウム、スズなどの金属ハロゲンを1種または数種を組み合わせ、ランプ性能にあわせて効率よく発光するものを選択して用いる。たとえば、赤色光用にはカドミウム、青色光用にはインジウム、緑色光用にはタリウムなど金属ハロゲン化物を用いている。
(6)LED(Light Emitting Diode、発光ダイオード) 電流を流すと発光する小さな半導体チップを樹脂で覆った光源である。小型、軽量、高い視認性、速い応答速度などの特徴に加えて、長寿命、低消費電力、水銀などの有害物質を使用しないなど環境負荷の低減に有効とされている。漁業用としてはとくにイカ釣り漁船などでは莫大な光量が必要であり、低エネルギーの光源として注目されている。
[添田秀男・吉原喜好]
集魚灯漁業
集魚灯漁業は、走光性をもつ魚類やイカ類など多獲性で集群性を有する魚類を対象とする漁業で、サンマ棒受網(ぼううけあみ)漁業、イカ釣り漁業、サバはね釣り漁業、サバたもすくい網漁業、イワシ・アジ・サバ巻網漁業(漁業において正しくは旋網(まきあみ)漁業と表記)などに代表される。また、サンマ棒受網漁業に使用する集魚灯の光力は、消費電力の総和が250キロワット以下に制限されている。
[添田秀男]