関節症性乾癬(乾癬性関節炎)(読み)かんせつしょうせいかんせん(かんせんせいかんせつえん)(英語表記)Psoriatic arthritis

六訂版 家庭医学大全科 の解説

関節症性乾癬(乾癬性関節炎)
かんせつしょうせいかんせん(かんせんせいかんせつえん)
Psoriatic arthritis
(膠原病と原因不明の全身疾患)

どんな病気か

 基本は乾癬という特徴的な皮膚症状があり、さらにリウマチ関節リウマチ、RA)もしくはリウマトイド因子陰性の脊椎(せきつい)関節症、あるいはその両者が混在したかのようなバラエティーに富んだ関節症状を呈します。乾癬の発病率は日本人で0.34%とされ、そのうち14.3%が関節症性乾癬と診断されます。乾癬性関節炎とも呼ばれ、珍しい病気ではなくなってきています。

 一見リウマチと同じような病気に見えることもありますが、遺伝やX線検査所見などからは独立した病気と考えられています。乾癬そのものには明らかに遺伝的背景があるとされています。

原因は何か

 関節症状を示す本症も、遺伝学的に白血球の遺伝型であるHLAのうちB型の特殊な型との関連が一部にあります。また、反応性関節炎と呼ばれている病気と似ている点が多く、感染症、たとえば溶連菌(ようれんきん)ブドウ球菌といった、ごくありふれた菌の感染症が発病に共通して関連していると想定されています。

 診断に役立つ皮膚症状の乾癬は約70%の患者さんで先行します。15%では皮膚と関節症状が同時に発症し、残りの15%では逆に関節症状が先行します。皮膚症状が遅れて出てくるタイプの診断は困難で、子どもに多いとされています。隠れた部位、たとえば頭皮、へそ周囲、肛門周辺などの乾癬を見落とさないことが大切です。リウマチとは異なり、発病がとくに女性に多いということはなく、男性女性同じくらいです。

症状の現れ方

①関節症状

 95%の患者さんに末梢関節炎を認めます。関節症状の現れ方は大きく5つのタイプに分かれます。

(1)反応性関節炎という病気に似て腱付着炎(けんふちゃくえん)(筋肉の端で関節につながり、関節を動かす役目をもつ腱のつけ根が痛くなる。代表的なものはアキレス腱が痛くなる)を伴い、かつ、ひとつないし少数の関節が痛くなる型(全体の30~50%)。

(2)遠位指節間(えんいしせつかん)関節炎型:指のいちばん先端の関節(通常リウマチでは痛くならないといった特徴があり、鑑別に役立つ)が痛くなる。

(3)破壊性関節炎型(ムチランス型):5%はムチランス型といわれ、指が短くなり力が入らなくなる高度の変形となることもあるとされている。

(4)リウマチに似て全身の多数の関節が痛くなる型(30~50%)。

(5)体軸(たいじく)障害型といわれ、強直性脊椎炎(きょうちょくせいせきついえん)という病気に似て背骨が痛くなったり、骨盤にある仙腸(せんちょう)関節が痛くなったり、時に股、肩の関節が痛くなるタイプ。

 しかし、背骨の痛み(本症では脊椎炎による)や仙腸関節炎はどの病型でも各30~35%に認められるとされています。

 病型間の移行もあり、症状は一定しないと考える必要があります。

②関節外症状

 指炎(ソーセージ指)は、指の腱滑膜炎(けんかつまくえん)骨膜炎(こつまくえん)により指全体がはれたようにみえます。

 腱ないし靭帯(じんたい)の付着部炎(症)は、とくにアキレス腱および(かかと)の腱の付着部によくみられます。結膜炎など眼症状を伴うこともあります。逆に強直性脊椎炎に認められる大動脈弁閉鎖不全(心臓の弁膜症)、ぶどう膜炎(眼の内部の炎症で、放置すると視力が低下する)、肺線維症(はいせんいしょう)(肺が硬くなる)などはまれです。

③皮膚症状

 乾癬はまわりとの境がはっきりした紅斑です。銀白色の鱗屑(りんせつ)(ふけのようなもの)を伴います。病変は肘、膝の伸側および頭皮、耳および仙骨上部に認められることが多いとされます。大きさは1㎝から数㎝に及び、かくと点状の出血がみられます。爪は表面にくぼみができたり、浮いてはがれそうになったりします。DIP関節(遠位指節間関節)病変のある爪に多数(20以上)のくぼみがあれば、本症に特徴的と考えられます。

検査と診断

①X線検査

 X線写真での変化は手、足、仙腸関節にみられます。関節の骨が壊れて(けず)られている部分と、逆に骨が増殖し白く厚みを帯びた変化の両方が同時に認められるといった特徴があります。

 これはリウマチや強直性脊椎炎ではみられない現象です。指の関節のすきまは極端に狭くなり、とくに指の先端の関節はペンシル・イン・キャップ変形と呼ばれる、鉛筆にキャップをつけたような特徴的な変形になります。

②血液検査

 一般にリウマトイド因子は陰性です。関節炎があるため、いわゆる赤沈やCRPなどの炎症反応は陽性になります。この点で反応性関節炎と呼ばれる病気との区別が困難な時があります。

治療の方法

 今までは、リウマチに比べると関節の症状はやや軽いとされてきました。しかし、実際にはムチランス型の高度の変形となってしまうこともあるので軽く考えないことが必要です。2015年頃より欧米でいくつかの治療指針が提唱されていますので、それに準じた治療を主治医とよく相談して受けることが必要です。皮膚症状は皮膚科専門医と、関節症状はリウマチ内科医とで連携してもらうようにします。

 治療の一般は、①まずリウマチの治療に似た薬を使い、それでも効果が上がらない時は、②生物学的製剤といわれる比較的新しい注射療法を考えます。

①従来の薬物療法

 関節症状にはまず運動療法を行い、関節が拘縮(こうしゅく)(硬くなり、曲げたり伸ばしたりできなくなる)しないようにすることが大事です。さらに症状によっては、非ステロイド性抗炎症薬を飲む必要があります。これでも症状が治まらない時は、リウマチの時と同様いわゆる抗リウマチ薬が必要になります。とくにアザルフィジン(サラゾスルファピリジン)やリウマトレックス(メトトレキサートMTX)が比較的よく効くといわれています。MTXは皮膚の症状にも有効のことが多いようです。そのほか、アラバ(レフルノミド)、ネオーラル(シクロスポリン)も使われます。最近(2016年12月)、オテズラといわれるホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬も使用が認められ、期待されるところです。

 ただし、残念なことに本症に対してはネオーラル、オテズラ以外は日本では保険適応ではありません(2018年3月現在)。また、副腎皮質ホルモン薬は関節症状に効いても、皮膚症状は悪化させることがあるのでお勧めできません。

②生物学的製剤

 残念ながら、従来の方法では満足のいく治療効果がえられるとはいい切れません。最近、リウマチでも注目されているのが生物学的製剤を用いた治療です。最近、乾癬そのもの、あるいは関節症性乾癬に関与するサイトカインが明らかにされています。各サイトカインをブロックするものが生物学的製剤といわれる抗体製剤です。

(1)抗TNF­α抗体(レミケード、ヒュミラ)、(2)抗IL­12/23p40抗体(ステラーラ)、(3)抗IL­17抗体(コセンティクス、トルツ)、(4)抗IL­17受容体抗体(ルミセフ)の6種の薬が日本では保険での使用が認められています(2018年3月現在)。

 患者さんによって、TNF­α、IL­12/23p40、IL­17のどのサイトカインが悪さをしているのかは異なりますので、抗TNF­α抗体を中心に使用し、無効であれば順次治療薬を変更していくことになります。

 また、抗TNF­α抗体製剤関連でも、リウマチには世界的にも有効とされるシンポニーやエンブレルは、日本では本症に対して保険で認められていないという不便さもあります。上述の抗リウマチ薬も、一部本症に対しての使用はいまだ保険上認められていないこともあり、どの薬を使うかについて日本人の治療データの蓄積と分析が待たれます。

 しかし、近年、関節リウマチや炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)を抗TNF­α抗体で治療していると、有害事象として新たに乾癬の皮膚症状が出てくるとの報告が出てきています。したがって、治療薬が高額であることのみならず、注射(点滴もしくは自分で注射する)の難しさ、副作用としての重い感染症(とくに結核(けっかく)など)や皮膚症状などの心配がありますので、主治医と十分相談することが必要です。

関連項目

 関節リウマチ強直性脊椎炎

稲田 進一

関節症性乾癬(乾癬性関節炎)
かんせつしょうせいかんせん(かんせんせいかんせつえん)
Psoriatic arthritis
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな病気か

 皮膚の病気である乾癬(かんせん)に合併して起こる関節炎です。乾癬の10~30%に起こるといわれており、そのうちの95%は皮膚症状と同時か後に発症します。関節リウマチに似ていますが、主に脊椎(せきつい)仙腸(せんちょう)関節といった体軸関節や末梢の関節に炎症が出る脊椎関節炎(せきついかんせつえん)という疾患グループのなかに含まれます。乾癬性関節炎とも呼ばれます。

 この病気はすべての人種にみられ、以前は欧米の白人に多いといわれていましたが、最近では日本人でもほぼ同等の頻度であることが報告されています。やや男性に多い傾向があり、30~50歳で発症し、ゆっくり進行します。

原因は何か

 関節症性乾癬は乾癬と同様に明らかな原因は不明です。この病気にかかりやすい遺伝的な素質があって、何らかの環境因子(感染症、ストレス、メタボリックシンドロームなど)が複雑に加わることにより発症すると考えられています。この過程は免疫の異常で起こるといわれています。免疫とは、本来は細菌やウイルスなどの外敵を排除するシステムですが、この異常によって自分の体の一部を外敵と錯覚して排除しようとしてしまうわけです。その中心的な役割を演じているのがサイトカインという物質で、関節症性乾癬ではある種のサイトカイン(TNF­α(アルファ)やIL­17A、IL­12、IL­23など)が異常に増えて、皮膚や関節の炎症を引き起こし、関節を壊していくことが最近の研究でわかってきました。

症状の現れ方

 関節の痛みやはれは、当初は軽度で少数の関節だけが侵される場合が多いようです。しかし、時に大きな関節も含め、破壊が進行することもあります。関節リウマチとは異なり、手や足の指の先端の関節によく起こり、爪にくぼみや変形などがみられることもあります。また、腱の付着部(アキレス腱や(かかと)、膝、肘など)の痛みが生じたり、指全体のはれ(指炎、ソーセージ指)がみられることもあります。脊椎に炎症が及ぶと、頸部や背中のこわばりや痛みがみられます。この症状は休息後や睡眠で悪化して、運動で軽快するという特徴があります。

 症状の特徴から、いくつかのタイプに分類されます。

・非対称性で発症する、炎症を起こしている関節数が少ないタイプ

・多発性に関節が炎症を起こし、関節リウマチに似ているタイプ

・関節破壊が強く、特に手指では高度な変形がみられるタイプ

・仙腸関節や脊椎に病変がみられるタイプ

などがあります。

 皮膚病変では、ほとんどの方に乾癬がみられます。乾癬はよくみられる慢性の皮膚疾患で、皮膚が肥厚して境界がわりとはっきりした炎症性の斑点があり、鱗屑(りんせつ)(うろこ)状の皮疹が厚くなったもの)でおおわれることもあります。病変は肘、膝の伸側、頭皮、耳、仙骨上部に認められることが多いようです。

検査と診断

 血液検査では、炎症性の変化のみであまり特徴的な変化はみられません。関節リウマチでみられるリウマトイド因子は陰性です。関節のX線検査では、軽度から重度の関節破壊がみられますが、関節リウマチとは異なり骨新生の特徴的な所見が認められます。脊椎ではX線検査で靱帯(じんたい)の骨化がみられることがありますが、MRIで早期の炎症を捉えることも可能です。

 最近の関節症性乾癬の診断は、CASPARの分類基準(2006年)に基づいて行われており、乾癬、爪病変、リウマトイド因子、指炎、骨新生の画像所見を組み合わせることによって診断されます。

治療の方法

 関節炎の治療は、まず非ステロイド性鎮痛消炎薬を使用し、症状に応じて副腎皮質ステロイド薬を関節内に注射することがあります。次の段階の治療として、抗リウマチ薬のサラゾスルファピリジンやメトトレキサートなども関節炎と皮疹(ひしん)に効果的であるといわれています。

 これらの治療で効果が不十分な場合や脊椎に病変がある場合は、最近、生物学的製剤が使われるようになりました。これには、関節リウマチで使用されている薬剤と同じくTNF­αを抑えるタイプの薬と、この疾患に特徴的なIL­17A、IL­12、IL­23などを抑えるタイプの薬があります。点滴注射皮下注射(自己注射も可能)で使用しますが、投与方法や投与間隔は薬の種類によって異なります。ただ、この薬が免疫機能を抑えることになるため、感染症やその他の副作用に対する注意が必要であることや、値段が高いことなどの問題点もあります。

 薬物治療の原則は、現在ある関節症状や皮膚症状を抑えるだけでなく、将来起こりうる関節の破壊や変形の進行を予防して予後を改善することにあります。そのためには、症状がほとんどない状態を目指して、定期的に治療効果を評価していくことが重要です。

 同時に乾癬に対する治療も行う必要があり、塗り薬や光線療法も行われています。また、関節に対するリハビリテーションも必要で、関節の運動プログラム、温熱療法や寒冷療法、水中療法などを試みるのもよいでしょう。

 関節の破壊が強い場合では、関節の固定術や人工関節置換術が選択されます。しかし、皮膚の炎症があるため手術には細心の注意が必要です。

病気に気づいたらどうする

 関節リウマチと同様に、なるべく早く診断して治療を始める必要があります。この病気の乾癬と関節炎は無関係と思っている方が多くおられますが、リウマチ専門医と皮膚科を受診して、連携治療を行うことが重要です。

関連項目

 関節リウマチ

田中 浩

関節症性乾癬
かんせつしょうせいかんせん
Psoriasis arthropathica
(皮膚の病気)

どんな病気か

 手指や足趾(そくし)四肢(しし)などの関節炎を合併する乾癬(尋常性(じんじょうせい)乾癬)です。患者さんはやや男性に多いとされており、乾癬の重症型と考えられています。

原因は何か

 尋常性乾癬と同様に原因は不明です。尋常性乾癬より、さらに体質的な要因が強く関与していると考えられています。

症状の現れ方

 尋常性乾癬の発疹が全身にでき、真っ赤な状態(紅皮症(こうひしょう))となっている時に、多くは関節の痛みを伴ってきます(図28)。

 通常は手指、足趾などの関節が痛みますが、肩や(ひじ)(ひざ)、腰(仙腸(せんちょう)関節)も痛くなることがあります。関節痛が長期にわたって続くと関節の変形も出てきます。

検査と診断

 特徴的な乾癬の発疹に加えて、関節リウマチのような関節痛、関節の変形がみられれば、関節症性乾癬と診断します。関節の痛みがある部分にはX線写真をとり、関節の状態をチェックします。関節リウマチと区別するため血液検査を行います。

治療の方法

 発疹の治療と関節炎の治療の両方が必要です。通常、この両方に効くシクロスポリン(ネオーラル)の内服で治療します。発疹にはステロイド外用薬が多く用いられますが、活性型ビタミンD3外用薬も効果があります。関節痛には関節リウマチの薬であるメトトレキサートが有効です。

 生物学的製剤の使用も重症例では行われつつあり、関節リウマチと同様にとくに関節痛に絶大な効果を示します。TNF­α(腫瘍壊死因子)をブロックする生物学的製剤の使用に関しては過去に結核の既往がないかどうか、感染症を増悪させないかなどの検査や診察が必要です。

病気に気づいたらどうする

 皮膚科専門医のいる医療機関を受診し、診断と治療を受ける必要があります。また、重症の場合には入院して治療を行うこともあります。

関連項目

 炎症性の角化症(かくかしょう)の全項目、関節リウマチ

金子 栄


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報