金属空気電池(読み)きんぞくくうきでんち(英語表記)metal air battery

日本大百科全書(ニッポニカ) 「金属空気電池」の意味・わかりやすい解説

金属空気電池
きんぞくくうきでんち
metal air battery
metal air rechargeable battery

負極活物質に鉄、亜鉛アルミニウムなどの金属を用い、正極活物質には空気中の酸素を利用するアルカリ蓄電池総称。正極(空気極)は燃料電池で開発されたカーボンを主体とするガス拡散電極を用い、水酸化アルカリ金属の水溶液が電解液に用いられている。負極活物質は資源が豊富で安価な金属であり、また正極活物質は空気なので電池内に保持する必要がなく、その分高エネルギー密度化することができるという特徴がある。正極の放電反応は
  O2+2H2O+4e-―→4OH-
で共通であるが、負極放電反応は金属の種類によって異なり、鉄、亜鉛、アルミニウムはそれぞれ
  Fe+2OH-―→Fe(OH)2+2e-
  Zn+2OH-―→Zn(OH)2+2e-
  Al+3OH-―→Al(OH)3+3e-
で、充電反応はこれらの逆である。それぞれの金属空気電池の起電力は1.28ボルト、1.65ボルトおよび2.70ボルトである。エネルギー密度は鉄空気電池では約80Wh/kgであるが、亜鉛空気電池は100~120Wh/kgと高くリチウムイオン二次電池のそれと同等であり、アルミニウム空気電池はさらに大きな値の約390Wh/kgが得られている。

 正極(空気極)では酸素の電気化学的還元(放電)反応をスムーズに進行させるため、高活性で安価な酸素還元触媒としてペロブスカイト形複合金属酸化物やポルフィリン系有機金属錯体などが添加されている。

 金属空気電池の充電にあたっては留意すべきことが多い。正極活物質は空気であるため充電の必要はないが、そのまま充電すると酸素が発生するため、正極に用いられているカーボンの腐食が激しく、耐酸化性の向上を図る必要がある。そのため放電時の酸素還元反応に活性で、しかも充電時の酸素発生反応にも活性な二元機能触媒活性を示す触媒が研究されている。一方、負極活物質では、鉄の場合はそのまま充電することも可能であるが、充電過電圧が高いことによる発熱や水素発生などの難点がある。また亜鉛負極では亜鉛が樹枝状に析出しやすく、短絡の原因となって充放電サイクル寿命を縮めるので、亜鉛負極をそっくり取り替える機械的充電方式が検討されている。アルミニウムを負極とする場合は、充電電圧が高いため水の分解がおこって充放電の可逆性が悪いので、亜鉛の場合と同様に機械的充電方式が採用されている。

 なお、アルカリ一次電池としてボタン形の空気亜鉛電池(空気電池ともいう)が生産されている。放電電圧が長時間にわたって平坦(へいたん)であり、水銀電池互換性があるので、従来水銀電池が使用されてきた補聴器などに用いられている。

[浅野 満]

『小久見善八編著『電気化学』(2000・オーム社)』『電気化学会編『電気化学便覧』(2000・丸善)』『電池便覧編集委員会編『電池便覧』(2001・丸善)』

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