日本大百科全書(ニッポニカ) 「放電」の意味・わかりやすい解説
放電
ほうでん
electric discharge
絶縁物に強い電場をかけると、その物質が絶縁性を失い、電流が流れる現象。気体中の放電がもっとも一般的であるが、真空中の放電、液体中の放電、固体中の放電なども問題となっている。なお、真空放電ということばが使われ始めたのは、1857年のプリュッカーの陰極線の発見のころであるが、陰極線は放電による発光がほとんど認められないような低圧力における現象なので、真空放電とよんだ。これは1万分の1気圧から100万分の1気圧くらいの真空度における放電であった。その後、広く1気圧以下に減圧した空気中の放電を真空放電とよぶことがあったが、最近では普通の低気圧放電には、あまり使われなくなっている。
絶縁物中の放電では放電中に電気を供給する導体を電極とよび、電気的に正(プラス)の電極を陽極といい、負(マイナス)の電極を陰極という。放電中では電気は正の電気をもった陽イオンと負の電気をもった陰イオンによって運ばれる。電気は陽極から陰極に向かって流れるから、陽イオンは陽極から陰極に向かって流れ、陰イオンは陰極から陽極に向かって流れる。陽イオンは電子を失った原子または分子、陰イオンは電子そのものか電子を余分に付着させた原子または分子であり、絶縁物中に電気が流れるようになる。
〔1〕気体中の放電 金属のような導体は、自由に動くことができる電子が多量にあるため電気を通すが、気体中には自由に動くことができる電子が非常に少なく、普通はほとんど電気を通さない。気体中に一対の電極を置き、電圧を加えていくと、初めは宇宙線などによって気体中にわずかに存在する自由な電子が流れる。電圧を高めると、わずかに流れている電子が加速され、気体分子に衝突して、気体分子を電離するようになる。気体分子の電離によって新しく生じた自由な電子もまた加速され、さらに他の気体分子を電離する。このようにして多量の自由な電子と陽イオンとが発生することを電子なだれが発生するという。また電離によって生じた陽イオンは陰極に流れていき、陰極に衝突して新しい電子を放出させる。このようにして多量の自由電子(陰イオン)と陽イオンとが発生し、電気を流すようになる。このように、陽イオンと陰イオンとが多量に存在する状態をプラズマという。電場によって加速された電子は、気体分子を電離するほか、気体分子を原子に解離したり、気体分子および原子を励起し発光させる。気体分子を励起した場合は、分子スペクトルである帯スペクトルを発光し、原子を励起した場合は、原子スペクトルである線スペクトルを発光する。一般に放電では放電路に沿って発光を生じることが特徴である。
〔2〕固体および液体中の放電 絶縁性の固体および液体中での放電は、もっとも普通の意味での絶縁破壊にあたる。固体中で放電がおこる機構としては、以下の二つが考えられている。(1)不純物として存在する伝導電子が固体中を流れるとき、一定値以上の運動エネルギーを得ると電離をおこし、電子なだれが発生し、ついには固体結合が破壊される。これを真性破壊という、(2)伝導電子が他の結合電子を伝導体に励起することにより電気伝導度が増して熱的に破壊する。液体中の絶縁破壊の機構はさらに複雑で不明な点が多いが、気体中の放電と同様に、電離と電極からの電子供給が行われる機構と、泡内の電離によって破壊に至る機構が考えられている。固体および液体の破壊電圧は、気体の場合よりも非常に高いことが特徴である。
なお以上のほか、広い意味では帯電体が電荷を失うことも放電という。たとえば充電された蓄電池やコンデンサーなどの電極から電極へと電流が流れているとき、蓄電池やコンデンサーは放電しているという。電池(一次電池)の場合も同様で、正極から負極へ電流が流れる過程を放電という。
[東 忠利]