重要土地利用規制法(読み)じゅうようとちりようきせいほう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「重要土地利用規制法」の意味・わかりやすい解説

重要土地利用規制法
じゅうようとちりようきせいほう

日本の安全保障上、重要な土地の利用を規制する法律。正式名称は「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」(令和3年法律84号)で、「土地規制法」「土地利用規制法」などともよばれる。2021年(令和3)に成立し、2022年9月に全面施行された。外国資本による不透明な土地買収歯止めをかけるねらいがある。自衛隊海上保安庁、アメリカ軍基地、原子力発電所、空港などの周囲約1キロメートルや国境近くの離島を注視区域に指定し、政府が土地や建物の利用実態、所有者の氏名国籍などを調査できる。とくに自衛隊司令部など重要性が高い施設周辺は特別注視区域に指定し、200平方メートル以上の土地の売買に事前届け出を義務づけた。政府は2022年から、沖ノ島(島根県)、八丈島(東京都)、自衛隊対馬(つしま)駐屯地(長崎県)など約600か所を順次対象区域に指定している。また、閣議決定した基本方針で、(1)航空機の離着陸レーダーの運用の妨げとなる工作物の設置、(2)レーザー光や妨害電波の照射、(3)領海や排他的経済水域EEZ)の基準となる低潮線(もっとも潮が引いたときの海岸線)を変えるおそれのある離島の地形変更、など7類型の「重要施設に対する機能を阻害する行為」を例示し、中止を勧告・命令できるようにした。従わなければ2年以下の懲役または200万円以下の罰金を科す。政府は2022年6月、内閣府に重要土地担当の政策統括官を置き、従来、複数部署が管理していた重要施設周辺の土地に関する情報を一元化し、監視の実効性を高めた。

 2010年(平成22)ごろから、長崎県対馬の自衛隊基地周辺を含む島の一部や北海道の山林などを外国資本が買収しているとの指摘が相次ぎ、そうした事態に対処するため法制化された。しかし、そもそも外国資本の買収という実態自体がないとの指摘や、過度な私権制限につながりかねないとの批判が日本弁護士連合会やリベラル団体などからあがっている。

[矢野 武 2023年1月19日]

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