重力の虹(読み)ジュウリョクノニジ(英語表記)Gravity's Rainbow

デジタル大辞泉 「重力の虹」の意味・読み・例文・類語

じゅうりょくのにじ〔ヂユウリヨクのにじ〕【重力の虹】

《原題Gravity's Rainbowピンチョン長編小説。1973年刊。同年の全米図書賞を受賞したが、授賞式に作者が現れず物議をかもした。ポストモダン文学の代表的作品一つ

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「重力の虹」の意味・わかりやすい解説

重力の虹
じゅうりょくのにじ
Gravity's Rainbow

アメリカの小説家、ピンチョンの代表作であるとともに、20世紀英語圏文学における大作の一つ。1973年刊。歴史の破壊的な力を追った『V.(ブイ)』(1963)が、大戦そのものは象徴的な扱いにとどめているのに対し、圧倒的な事実調査に基づいたこの作品は、V2ロケットの降るロンドンから分割占領下のドイツへ、映画的ともいえるスーパーリアリズムの空間を現出する。と同時に、古代神秘思想から糞便(ふんべん)学までを包容する豪放な想像力で、大戦を、集合的な死を目ざす現代産業システムの本格的な飛翔(ひしょう)の始まりとして描出する。400に近い登場人物が織り成す幾多のプロットの中心には、人間の性感を強烈に刺激する特殊プラスチックを積んだロケットが据えられており、それがピンチョンの百科全書的・パラノイア的語りのなかで、西洋文明の宗教と科学と文学のイデオロギーを吸い上げながら、天への超越を目ざして打ち上げられ、われわれの頭上に落下する仕組みになっている。

[佐藤良明]

『越川芳明他訳『重力の虹』全2冊(1993・図書刊行会)』

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