軽金属工業(読み)けいきんぞくこうぎょう

改訂新版 世界大百科事典 「軽金属工業」の意味・わかりやすい解説

軽金属工業 (けいきんぞくこうぎょう)

金属工業のうち,比重の比較的小さい金属,すなわち軽金属を扱う工業。軽金属には,アルミニウム,マグネシウム,チタン,ベリリウム,リチウムなどがあるが,とくにアルミニウムは鉄に次いで生産量が多く,軽金属の代表であるので,ここではアルミニウム工業を中心に述べる。

原鉱石(ボーキサイトなど)からアルミナAl2O3を製造する化学的工程と,その電解工程(アルミ1t当り約1万5000kWhを要する)の2過程を要する高度な電気化学工業で,その発達には苛性ソーダ,フッ化物,電力など関連工業の発達,高品位の原鉱石ボーキサイト(Al2O350%以上含有)と,豊富で安価な発電地帯を有することが条件となる。しかしボーキサイトは熱帯,亜熱帯等(ギニアジャマイカオーストラリアなど)に偏在していて,これらの条件に合致する地域が少なく,結局,電力資源の条件がアルミニウム工業成立発展の基礎となる。アルミは製品の差別化がなく,このように原・燃料依存の高い産業のため,国際アルミニウム資本(メジャー)の影響が強い。世界のアルミニウム工業は19世紀末の勃興期当初からホール=エルー法(近代アルミ製錬,電解法)の特許が切れるまで,製錬企業数が世界で5社という寡占状態であった。その後,各国で新規参入がなされたが,世界恐慌と市場の未成熟により,国際アルミ資本の系列下に統轄された。1901-39年の約40年間に国際カルテルは4回結ばれ,現在六大メジャー(アルキャン・アルミニウム(カナダ),アルコア,カイザー・アルミニウム,レーノルズ・メタルズ(ともにアメリカ),アルスイス(スイス),PUK(フランス))が自由世界の供給の約6割を占めている。

 世界のアルミ生産量は1890年に150tであったが,その優れた特性のため,1980年には1645万tと急増している。戦争が起こるたびに消費量・需要分野を拡大し,たとえば第1次大戦が始まった1914年に世界のアルミ需要は8万3600tであったが18年には19万6000tと2.3倍に伸び,第2次大戦勃発時の39年の67万7400tは43年に168万2300tへ2.5倍に増加している。戦争で航空機,機関銃のラジエターなど,軍需資材に大規模な需要が起こったためである。第2次大戦後は民需(建設,電力,通信,自動車,日用品)中心に需要を伸ばしている。

 日本のアルミ工業は,1901年にアルミ地金を輸入して食器を製造したのが始まりである。国産地金を作るのに成功したのは34年で,世界で12番目の生産国となった。ジュラルミン合金の開発など日本のアルミ技術は世界的にも優れ,34年に1002tの生産量が43年には11万4057tへと,両大戦中に急成長した。第2次大戦後は日本経済の高度成長のなかでアルミサッシュアルミホイル,アルミパネルなどの大型需要分野の相次ぐ登場で急成長した。ちなみに65-73年のアルミ製品需要は年率22.6%の伸びを示した。アルミ工業を業態でみると製錬業,圧延業,製品加工業に大別されるが,アルミ・メジャーでは一貫生産(垂直統合)が行われているのに対し,日本では加工企業,製錬企業,圧延企業が別々に発展したという歴史的背景もあって垂直統合がなされておらず,日本軽金属を除くアルミ企業はこのいずれかの業態に特化している。また日本のアルミ製錬業は製錬エネルギーをとくに石油火力発電に頼ってきたため,73年,79年の2度の石油危機による電力コスト高騰のため国内製錬はコストの安い輸入地金に対抗できなくなり,国際競争力を喪失した。その結果,石油危機前には7社14工場,年間生産能力164万tであった日本のアルミ製錬業は,現在では自家水力発電設備を持つ日本軽金属蒲原工場だけとなり,国内アルミ工業は加工業に集約している。アルミ地金の年間生産量は109万t(1980)から1.7万t(1996)にまで落ちている。

 なお,今後のアルミ工業が進む方向としては,(1)資源の供給安定ルートを確保するための海外製錬プロジェクトと開発輸入の促進,(2)省エネによるコストダウンおよびリサイクリング,(3)代替エネルギー,新製錬技術(日本では溶鉱炉法を研究中)の開発がある。アルミ材料自体は石油危機後の省エネ・軽量化という時代ニーズに合致した素材であるため,自動車や電子・電気業界向けに需要は順調に成長していくと考えられる。

軽金属のなかで工業化が最も新しく,1948年にアメリカのデュポン社が手がけたのが最初である。日本では52年から生産を開始し,現在の金属チタン(スポンジチタン)の生産量は1万6700t(1995)である。4割前後がアメリカなどに輸出されている。電解工程における電力原単位は約2万kWh/tとアルミよりも高くなっており,電力多消費型工業の一つである。需要は,金属チタンが耐熱強度特性を有することからジェットエンジン部品などの航空宇宙産業向け,高耐食性から海水淡水化装置用,あるいは石油化学その他の一般化学工業向けが中心である。なお,軍需用戦略物資であり,かつ原鉱石(イルメナイト鉱石やルチル鉱石)が旧ソ連や中国,ブラジル,南アフリカ共和国などに偏在しているため,アメリカなどを中心に各国で備蓄の対象とされている。酸化チタンは白色顔料,塗料,繊維,化学等広く利用される。

日本は1957年までアメリカ,カナダから3000tほど輸入していたが,海水からの製造が工業化され,58年以降は自給している。消費は軽合金圧延,鋳物,印刷製版,自動車部品など広範囲にわたっている。

前者は原子炉用材料や合金として使用され,後者は銅の脱酸剤,マグネシウム合金の添加剤として利用される。近年はアルミとの合金が盛んに研究されている。ただしレアメタルに属し,量産は難しい。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「軽金属工業」の意味・わかりやすい解説

軽金属工業
けいきんぞくこうぎょう

金属工業のうち、比重の軽い金属の精錬、加工を行う工業を、軽金属工業と便宜的によんでいる。鉄の比重7.87とアルミニウムの比重2.70のほぼ中間の5.0の比重を基準にして、それ以下を軽金属としている。アルミニウム、マグネシウム、ベリリウム、カルシウム、リチウム、チタン、シリコンなどである。

 軽金属は、自動車、航空機といった乗り物の材料としてよく利用される。たとえば、現代の自動車産業界でも「グラム作戦」といわれるエンジンの軽量化の努力が続けられている。エンジンを1グラム軽量にすると、車全体で4グラム軽量にすることができる。車が軽量化すると、(1)燃料消費が少なくなる、(2)積載量が増える、(3)修理費も少なくなる、などというように、効果が相乗的にきいてくる。航空機の場合、自動車以上に軽量化が求められる。また電気の時代となり、電力の長距離送が始まると、電気の良導体としてのアルミ撚(よ)り線が必要になってくる。重量当りでよく電気を導く材料はアルミニウムで、銅に勝る。

 アルミニウムの原料であるボーキサイトは、赤道周辺に賦存するという特性がある。これは、ある岩石が熱帯特有の風化作用(高温にさらされ、スコールに打たれることによっておこるラテライト化作用)を受けて、溶けやすい金属が溶け出し、後にボーキサイトが形成されるからである。したがってボーキサイトは、ラテライト化作用の及ぶ、ごく地表浅い所に形成される。2008年の時点で、世界の主要なボーキサイトの生産国は、第1位はオーストラリア(6139万トン)、第2位は中国(3500万トン)、第3位はブラジル(2200万トン)で、それぞれ全世界の生産量の30%、17%、11%を占めており、これら3か国で世界の生産量の約6割を占めている。しかしアルミニウムの生産は中国、ロシア、カナダが多く、この3国だけで全世界のアルミニウム生産の52%に達する。

 マグネシウムはドイツが開発した金属で、ドイッチェ・メタルともいわれる。ボーキサイト資源を産出しないため、ドイツは、海水に含まれるマグネシウムに注目、アルミニウムの代用に使い始めた。第二次世界大戦後、フォルクスワーゲンに一時使われたことがある。

 チタンは、第二次世界大戦時、航空機が高速化され、ジェットエンジンがつくりだされたが、その材料としてアメリカで開発されてきたものである。

[黒岩俊郎]

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百科事典マイペディア 「軽金属工業」の意味・わかりやすい解説

軽金属工業【けいきんぞくこうぎょう】

金属工業のうち,軽金属を扱う工業。アルミニウム工業が最大で,生産も急成長を続けており,1997年の世界の生産量は2181万t。米国が360万tで首位。日本では自動車の軽量化,飲料缶の普及など内需は旺盛だが,ほとんどを輸入(1997年257万t)に頼っており,アルミ精錬を行っているのは日本軽金属1社となっている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「軽金属工業」の意味・わかりやすい解説

軽金属工業
けいきんぞくこうぎょう
light metal industry

おもに軽金属を精錬加工する産業部門。軽金属とは比重の小さい特性をもつ金属をいい,単体また合金として構造材,機能材など工業的用途は広い。ほとんどがアルミニウム精錬業と,圧延などのアルミニウム加工業で,これにマグネシウムやチタンを対象とする部門が加わる。アルミサッシ,アルミ缶などの需要の急進で,急成長した。統計上は非鉄金属工業として扱われる。

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