転移(精神分析)(読み)てんい(英語表記)transference

翻訳|transference

日本大百科全書(ニッポニカ) 「転移(精神分析)」の意味・わかりやすい解説

転移(精神分析)
てんい
transference

感情転移ともいわれる。自由連想による精神分析では、患者分析が進んでくると不安や希望などを自由に話すようになり、分析者に対して特殊な感情的態度をもつようになる。信頼の度を超えて患者は分析者に愛情を抱くようになったり、その反対に敵対的で攻撃的になったりする。これをそれぞれ正の転移、負の転移という。こうした転移は、患者が幼児期に親に対して抱いていた感情が移しかえられて、分析者に対して表出されるようになったものとみなされる。この転移は転移神経症とよばれ、精神分析治療に対する一種抵抗とみなされる。自由連想によって無意識が意識に近づいてくると、患者は無意識を意識しないようにする抵抗の手段として転移をおこすと考えられるからである。しかし、逆説的であるが、このような転移抵抗がおこるからこそ分析的治療が可能になってくるのである。転移がおこると患者の幼児期に生じた親との葛藤(かっとう)が面接の現場のなかで再現されるので、心理的な病のもとになっている葛藤を現実的な問題として処理することができるからである。この意味では、転移がおこるか否かによって、治療が可能かどうかが決められる。一般に神経症の患者では転移がおきても、精神病の場合には転移がおきないので精神分析は困難であるといわれるが、クライン彼女後継者は精神病の場合にも転移精神病がおこると考え、積極的に精神分析治療を行った。

 学習心理学分野では、ある事柄学習すると、他の事柄を学習しやすくなることがあるが、これを学習の転移という。この場合は、ある特殊な問題を解決するような能力を身につけるというより、もっと一般的な能力を身につけるかどうかが問題になる。

[外林大作・川幡政道]

『ハインリッヒ・ラッカー著、坂口信貴訳『転移と逆転移』(1982・岩崎学術出版社)』『松木邦裕著『分析空間での出会い――逆転移から転移へ』(1998・人文書院)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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