デジタル大辞泉
「軋」の意味・読み・例文・類語
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
きし・む【軋】
〘自マ五(四)〙 物がすれ合う時になめらかにいかないで、きしきし音をたてる。きしめく。
※能因本枕(10C終)二五「墨の中に、石のこもりてきしきしときしみたる」
※
俳諧・大坂独吟集(1675)下「
油屋のしめ木の音をしるべにて しのびて明る戸やきしむらん〈
未学〉」
[
語誌](1)
擬音語「きしきし」の「きし」の
動詞化。「きしめく」「きしる」も同様の意味で用いられる。
(2)中世以降には、
語頭の濁音化した「ぎしむ」「ぎしめく」が生じたが、これらは、物がこすれることによって生じる音を表わすとともに、
相手に対抗するために「力む」「争う」「競い合う」の意味に拡大していった。
きしろ・う きしろふ【軋】
〘自ハ四〙
※宇津保(970‐999頃)国譲下「人にきしろひていた
づらにならんと思給へず」
※
源氏(1001‐14頃)
絵合「御むすめに、きしろふさまにてさぶらひ給ふを」
② ぶつかり合うように、こみ合う。ひしめく。また、障害物にぶつかって
進行が妨げられる。〔
名語記(1275)〕
※言塵集(1406)四「手ざをとは 舟のきしろふ時両方よりさをさしはる也」
きしり【軋】
〘名〙
① 物がすれあって音をたてること。きしること。また、その音。
※俳諧・
洗朱(1698)「工みなし五十歳の門の戸の輾」
② 人と人との間がうまくゆかないで、
争いなどが生じること。
軋轢(あつれき)。不和。
※
二人女房(1891‐92)〈
尾崎紅葉〉上「此天産物の脂が
両性の間を和げて、軋轢
(キシリ)を遏
(と)めること請合の
妙薬に出来て」
きしみ【軋】
① きしきしと音をたてること。
※橇(1927)〈
黒島伝治〉四「滑桁
(すべりけた)のきしみと、凍った雪を蹴る蹄の音がそとにひびくばかりであった」
② 争うこと。また、あれこれと思いめぐらすこと。不調和。不和。「二人の間に軋が生じる」
※浮世草子・鬼一法眼虎の巻(1733)四「最前そちを討たんとせし手段のきしみに」
きしま・す【軋】
[1] 〘他サ四〙
① きしきしと音をたてさせる。
② 気をもませる。じれったがらせる。
※浄瑠璃・孕常盤(1710頃)四「それ彼様が彼様が、少きしまして見さんせ」
きしま・せる【軋】
※大乗院寺社雑事記‐文明一一年(1479)一二月二三日「礼銭可レ取之用きしまする歟。比興事之由訓英申」
※浮世草子・傾城色三味線(1701)京「扨は身を田舎者ののび助と思ひ、はりあいをかけ、きしますると見へたり」
きしろい きしろひ【軋】
〘名〙 (動詞「きしろう(軋)」の連用形の名詞化) きしろうこと。争うこと。きそいあうこと。きしり。ふつう「車きしろい」の形で用いられる。
※栄花(1028‐92頃)初花「女房の車きしろいもありけれど」
きしろわし きしろはし【軋】
〘形シク〙 (動詞「きしろう(軋)」の形容詞化) きしろうようである。争いがちである。競争がましい。
※狭衣物語(1069‐77頃か)二「中宮参らせ給て後は、〈略〉あるにもあらぬ御有様を、きしろはしう」
ぎし・む【軋】
〘自マ四〙 りきむ。いばる。いきまく。
※浄瑠璃・源氏長久移徙悦(1685)四「義経ぶけうし給ひ、扨は某が偽をいふと思ふか、入らんといふ人相手成はと、ぎしみ給へば」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の軋の言及
【箏】より
…唐代(618‐907)に至り,清楽は12弦箏を用いたが,他は13弦箏を普通とした。 奏法には指で奏する搊(しゆう),骨製の爪(義甲)で奏する弾,弦を擦って鳴らす軋(あつ)があったというが,搊と弾の意味はかならずしも明確ではない。宋代(960‐1279)になると12弦箏は用いられなくなる。…
※「軋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」