身替り(読み)みがわり

改訂新版 世界大百科事典 「身替り」の意味・わかりやすい解説

身替り (みがわり)

他の人の替りをつとめることであるが,また,人形浄瑠璃,歌舞伎の作劇および演出の用語。神仏の身替りによって,人が災難から救われるという話は,中世社会に広く流布していた。とりわけ,地蔵霊験譚の多くは,この奇跡を語っているが,説経浄瑠璃などの芸能でも,身替りは主要なモティーフとなっている。近世の人形浄瑠璃や歌舞伎では,こうした宗教芸能的な流れを,さらに,ある人物が別の人物の身替りとなるといった設定へ発展させ多くの作品を生んだ。その多くは義理や忠義という近世的モラルにもとづく緊迫した人間関係を〈身替り〉によって鋭く表現するものである。《身替り音頭》(《大塔宮曦鎧(おおとうのみやあさひのよろい)》)や《身替りお俊》のように,字義どおりの作品も作られている。また,《熊谷陣屋》の敦盛小次郎,《弁慶上使》の卿の君と信夫のように,二役を同じ俳優が演じて強調する演目もある。身替り狂言の代表的なものは《寺子屋》だが,夫婦そろって身替りに立つ《競(すがたくらべ)伊勢物語》,姉妹で死を争う《玉藻前》三段目,恋人のために命を捨てる《扇屋熊谷》の小萩など,身替りの状況はさまざまである。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報