蹲踞(読み)ソンキョ

デジタル大辞泉 「蹲踞」の意味・読み・例文・類語

そん‐きょ【××踞/×蹲居】

[名](スル)
うずくまること。しゃがむこと。そんこ。
「其の近傍なる公園中に、―する者も、少からず」〈竜渓経国美談
貴人が通行するとき、両ひざを折ってうずくまり、頭を垂れて行う礼。また、後世、貴人の面前を過ぎるとき、ひざと手を座につけて会釈すること。
相撲や剣道で、つま先立ちで深く腰を下ろし、十分ひざを開き、上体を正した礼の姿勢。

そん‐こ【××踞/×居】

[名](スル)そんきょ(蹲踞)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「蹲踞」の意味・わかりやすい解説

蹲踞
つくばい

蹲(つくば)って使う手水(てみず)の形式をいう。伊勢(いせ)神宮の五十鈴(いすず)川で手水を使うのも一種の蹲踞で、桂(かつら)離宮松琴(しょうきん)亭茶室前の「流れの手水(ちょうず)」(桂離宮)もまったく共通したくふうである。通常は立ち使いのできないよう低く水鉢を据える。手水構えを不可欠の施設とした茶の湯露地(ろじ)で、この蹲踞が発達した。蹲踞(そんきょ)して手水を使うことは、茶の湯にふさわしい謙譲の所作であったからである。茶の湯は「出世間(しゅっせけん)」の世界である。潜(くぐ)りや蹲踞は世俗を超えるための結界(けっかい)である。亭主が自ら運び入れた水を、客がくむ。客にとってもっとも厳粛な所作であり、茶事における主客の心の最初の触れ合いがある。露地が奥山寺へ通う山中情景を理想としたように、蹲踞も岩清水をくむような幽邃(ゆうすい)な趣(おもむき)を求めた。そのため手水鉢には自然石を利用したものが多いが、また各種のものが用いられてきた。

 手水構えは、水鉢を中心に、前方に前石左右湯桶(ゆおけ)石、手燭(てしょく)石を配し、好みの形の石組(いわぐみ)を形成するのが通型である。水鉢と前石の間の海に水門をつくり小丸石を入れる。普通、蹲踞のかたわらに鉢明かりの灯籠(とうろう)を配する。蹲踞は、役石種類形状などによりさまざまな石組の造形美を表し、露地や庭の景観に重要な役割を演じる。

[中村昌生]

『中村昌生・西澤文隆監修『日本庭園集成 蹲踞と鉢前』(1985・小学館)』

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改訂新版 世界大百科事典 「蹲踞」の意味・わかりやすい解説

蹲踞 (つくばい)

手水鉢(ちようずばち)には立ち使いと蹲(つくば)う形式とがあるが,露地ではもっぱら蹲踞の形式が採り入れられている。鉢を低く据え,蹲って使うところからこの名がある。手水鉢を中心に,左右に手燭石と湯桶(ゆとう)石を据え,前石を置いた構成を通型とし,付近には鉢明りの灯籠が配される。茶事に臨み心身を清浄にし,〈世塵のけがれをすゝぐ〉(《南方録》)ための,露地におけるもっとも重要な施設である。
手水鉢
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百科事典マイペディア 「蹲踞」の意味・わかりやすい解説

蹲踞【つくばい】

手水(ちょうず)鉢の一種で,茶室の入口近くに設けられる。武野紹鴎(たけのじょうおう)や千利休らによる佗茶(わびちゃ)のもつ謙虚な精神から草庵(そうあん)の成立と同じような意味で,貴人でも身をかがめて手水を使う定めとなったのに始まる。初めは手水鉢と前石を置く程度だったが,露地の発達に従って,山間の石組を模すなど趣向がこらされるようになった。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「蹲踞」の意味・わかりやすい解説

蹲踞
つくばい

茶室の露地に低く置かれた石製の手水鉢 (ちょうずばち) 。茶客が入席する前にここで手を清めるが,そのとき体を低くしてつくばうのでこの名が生れた。手水鉢に前石と控え石を置く簡単なものから,手水鉢,前石,手燭石,湯桶石などの石組みに,鉢明り灯籠や灯障 (ひざわり) の樹木を配する複雑なものまである。

蹲踞
そんきょ

相撲の基本姿勢の一つ。つま先立ちで深く腰をおろし,十分に膝を開き,上体を正しくして重心を安定させた姿勢をいう。

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世界大百科事典(旧版)内の蹲踞の言及

【胡床】より

…中国の古代における座法は,後の時代のごとく倚座ではなく,日本と同じく平座が普通であった。敷物などの上に危座(正座),箕踞(ききよ)(なげあし),蹲踞(そんきよ)(たてひざ),趺座(あぐらかき)したのである。礼儀にかなった座法は危座であった。…

【ファロー四徴症】より

…また疲れやすく,息切れしやすい。運動している途中で急にしゃがみ込み,しばらくしてまた立ち上がって運動を続ける症状が特徴的で,このしゃがみこんだ姿勢を蹲踞(そんきよ)という。乳幼児期には,無酸素発作といって,眠りから覚めたときなどに,啼泣,哺乳,排便などがきっかけになって,チアノーゼが増強し,呼吸が苦しくなり,ぐったりする発作を起こすことがある。…

【手水鉢】より

…手水鉢の役割は,茶事に臨むに際し,神仏に詣でるのと同様に心身を清浄にするところにあり,《南方録》に〈露地にて亭主の初の所作に水を運び,客も初の所作に水をつかふ,これ露地・草庵の大本也,此露地に問ひ問ハるゝ人,たがひに世塵のけがれをすゝぐ為の手水鉢也〉と説かれている。種々の趣向がこらされ,庭に生けこんで鉢を低く据えたつくばい(蹲踞)や,縁先手水鉢とも呼ばれる丈の高い鉢前(はちまえ)形式の手水鉢が工夫された。水をためておく水穴は,浅い半球形のものが多く,楕円形,角形のものもある。…

※「蹲踞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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