薔薇色の十字架(読み)ばらいろのじゅうじか(英語表記)The Rosy Crucifixion

日本大百科全書(ニッポニカ) 「薔薇色の十字架」の意味・わかりやすい解説

薔薇色の十字架
ばらいろのじゅうじか
The Rosy Crucifixion

アメリカの作家ヘンリー・ミラーの自伝的三部作。『セクサス』Sexus(1949)、『プレクサスPlexus(1953)、『ネクサス』Nexus前編(1960)からなる。国外逃亡者としてパリに渡る以前の作家の愛の生活と体験を、一部小説風、一部エッセイ風に描いたもの。最初の妻と離婚したあと、ミラーはダンスホールで知り合ったジューンスミス同棲(どうせい)、そして結婚生活に入り、以後定職につかないまま、作家修業に励む。落後者として世間の目に対し死んだ彼は、真の愛を通して生命の根源に降りてゆくことにより、新しい個性として蘇生(そせい)した、ということが『薔薇色十字架』のタイトルの意味であるという。この生活経験の意味を超現実主義的な手法で描いたのが『南回帰線』(1939)であるとするなら、それを時間的配列に従って事実面に忠実に描いたのが『薔薇色の十字架』であるといえる。ジューンと別れ、パリに出発するところを描くはずだった『ネクサス』後編は、ついに書かれずに終わった。

[筒井正明]

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