腎・尿路結石

内科学 第10版 「腎・尿路結石」の解説

腎・尿路結石(その他の腎・尿路疾患)

尿路結石症は古くから普遍的な疾患であり,約7000年前のエジプト時代のミイラ腎盂結石膀胱結石があったことが発見されている.近代までは下部尿路結石である膀胱結石が大勢を占めていたが,産業化とともに上部尿路結石である腎・尿管結石の占める割合が急激に増加した.現在わが国においては,上部尿路結石が全尿路結石の90%を占めている.尿路結石の治療は,以前は開放手術が行われていた.1980年代に入って,体外衝撃波砕石術(extracorporeal shock wave lithotripsy:ESWL)や経尿道的尿管砕石術(transurethral ureterolithotripsy:TUL),経皮的腎砕石術(percutaneous nephrolithotripsy:PNL)といった尿路内視鏡手術(エンドウロロジー)が導入され,侵襲が低く有効な治療法が確立し,治療戦略が大きく変化した.
分類
 上部尿路結石を結石成分で頻度順に分類すると,シュウ酸カルシウム,リン酸カルシウム単独または混合結石,尿酸,リン酸マグネシウムアンモニウムなどの感染結石,シスチン結石の順となる.過去の調査結果と比較し,最近カルシウム含有結石の割合が増加し,感染性尿路結石の割合が減少している.性別・部位別にみるとカルシウム含有結石は上部尿路に多く,膀胱結石は尿酸結石または感染結石が多い.膀胱結石は神経因性膀胱前立腺肥大症などの下部尿路通過障害や,膀胱憩室,長期臥床,長期膀胱内カテーテル留置が原因疾患であることが多く,男性に高頻度で認められる(約75%).感染性結石は女性の頻度が高く,女性では尿路感染症の頻度が高いことが原因とされる.腎盂と2つ以上の腎杯に連続する結石を珊瑚状結石とよび,無症状で発見されることが多く,Proteus属などのウレアーゼ産生菌の関与も指摘されている.腎機能の温存や尿路感染症の予防のためにも積極的治療を考慮する必要がある.
原因・病因
 尿路結石は腎臓で尿中のカルシウムや尿酸などの結石構成塩類が析出し,そこに蛋白質などの有機物が影響を及ぼすことによって形成されると考えられている.尿路結石の成分は,カルシウム(シュウ酸カルシウム,リン酸カルシウム)が約80%で最も多く,ついでリン酸マグネシウムアンモニウム7.4%,尿酸5.2%,シスチン1%,その他7.0%である.結石の発生機序に関しては不明の点もあり,尿路結石の形成は複合要因による多因子疾患であるとされる. 尿路結石形成の要因として,結石構成成分の尿中排泄増加,マグネシウム・クエン酸ピロリン酸などの結晶化阻止物質の尿中排泄低下,尿酸など結晶化促進物質の尿中排泄増加,尿路中の異物,尿pHの変化(酸性尿では尿酸やシスチン結石,腎尿細管性アシドーシスなどアルカリ尿ではリン酸塩を含む結石を生じやすい),尿路通過障害,尿路感染症,長期臥床,骨粗鬆症,副甲状腺機能亢進症,Cushing症候群などの内分泌疾患がある(表11-13-3).尿路結石は生活習慣病との関連性も指摘されており,2005年の調査では生活習慣病のうち,高血圧の合併頻度が最も高く(21%),ついで脂質異常症(14%),糖尿病(9.8%)の順であった.また最近では肥満が尿路結石の発生率を高めることも指摘されている.
頻度
 尿路結石の生涯罹患率は男性で15.1%,女性で6.8%と,男性に多い傾向がある.年齢別にみると,男性の尿路結石症の発症は,20歳から増え40歳代に好発年齢のピークを認める正規分布に近い分布である.女性では50歳代に発症のピークがあり,閉経などのホルモンバランスの変化が関与している.尿路結石の罹患率はこの10年間に上昇している.その要因として①食生活や生活様式の欧米化により,動物性蛋白質,脂肪を多く取る食生活が定着したこと,②診断技術の向上(CTや超音波検査が広く行われるようになったこと),③人口構成の高齢化,などがあげられる.尿路結石の再発率は5年間で50%と高く,再発予防が重要である.
臨床症状
 腎結石は無症状のことが多く,健診や血尿の精査中に偶然見つかることが多い.男性および閉経後の女性に急激に発症する,血尿を伴う腰背部痛を認めたとき,尿路結石を疑う.疼痛発作は尿が濃縮される夜間から明け方が多い.身体所見ではCVA knocking pain(肋骨脊柱角の叩打痛)がみられる.通常は腹膜刺激症状を伴わない.尿路結石では血尿を認めることが普通だが,尿管に結石が完全嵌頓した場合には,尿流が停滞するため,尿潜血・血尿が陰性になることもある.
検査成績・診断
 診療にあたっての診断は①病歴(薬歴も含む)聴取,診察,②尿検査,末梢血液検査,CRP,血液生化学(クレアチニン,尿酸,カルシウム,リン)検査,③腎尿管膀胱部単純X線撮影(KUB),④腹部超音波断層法,⑤腹部単純CT検査,排泄性尿路造影(DIPもしくはIVP)を行う.救急時は,尿沈渣,超音波検査による患側腎の腎盂の拡張,および腹部CTにて尿路内の結石を証明することで,結石の存在診断を行う.
 尿路結石の発生には,尿中の結石関連物質が一定期間過飽和になることが必要である.そのため,尿中結石関連物質に関する尿検査が行われる.24時間蓄尿が推奨されており,尿生化学でカルシウム,クエン酸,尿酸,シュウ酸,pHの測定を行う.尿路結石の90%を占めるシュウ酸カルシウム結石においては,尿中のシュウ酸およびカルシウム濃度が危険因子として重要である.副甲状腺機能亢進症では副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌亢進のため,骨からのカルシウム吸収が増し,血清カルシウムが上昇して尿中カルシウム排泄量が上昇する.そのため,血清カルシウム・リン濃度の測定を行う.また高尿酸血症の除外のために血清尿酸値を測定する.
鑑別診断
 急性腹症をきたす疾患(虫垂炎,イレウス,卵巣囊腫の軸捻転,子宮外妊娠など),腰痛をきたす整形外科的な疾患,尿管腫瘍との鑑別を要する.家族歴,過去の尿路結石の治療歴の情報を得ることが重要である.
治療・予後
 疝痛発作に対しては,鎮痙薬,鎮痛薬の投与,輸液を行う.繰り返す疝痛発作,尿路感染の合併,持続する上部尿路閉塞(水腎症)で腎機能の低下が懸念される場合には,ESWL,PNL,TULなど,生体への侵襲を最小限に抑えた治療を考慮する.
再発予防
 尿路結石は再発する頻度が高く,カルシウム含有結石の再発率は30~50%である.クエン酸製剤が再発予防に有効である.代謝疾患に起因する結石も存在するために,結石分析が必須であり,病因に対しての治療は再発予防の観点からも重要である.カルシウム結石に関しては1日2000 mL以上の飲水指導を行い,不規則な食生活や,動物性蛋白質,高脂肪食の改善を行う.尿酸結石に対しては,クエン酸製剤の内服処方によって尿をアルカリ化し尿酸結石の再発の予防が可能である.また尿中尿酸排泄量と結石発生率は相関しており,高プリン体食の制限などの食事指導に加えて,アロプリノールの内服が有効である.常染色体劣性遺伝であるシスチン尿症によるシスチン結石に対しては,再発予防には蛋白質制限(メチオニン制限)と食塩制限を行う.同時に24時間尿中シスチン排泄量を測定しチオプロニンの内服処方を行う.[磯谷周治・堀江重郎]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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