職務態度(読み)しょくむたいど(英語表記)attitude toward job,job attitude

最新 心理学事典 「職務態度」の解説

しょくむたいど
職務態度
attitude toward job,job attitude

各人が担当し遂行すべき職務に対して,そのときその人がすでに保持しているなんらかの心的傾向predispositionが職務態度である。態度は,社会心理学における重要概念の一つである。オールポートAllport,G.W.(1935)は,態度を「経験を通じて体制化された心理的あるいは神経生理的な準備状態であって,人間有機体がかかわりをもつすべての対象や状況に対する当該有機体の行動を方向づけたり変化させたりするもの」と定義している。すなわち態度とは,人が特定の刺激に対して反応するとき,当人にすでに具備された心身の「傾き」であり,動作や行動のありようを方向づけし調整する存在として仮定された概念(仮説的構成体hypothetical construct)である。仮説的構成体であるがゆえに,態度そのものを直接に測定することはできない。そこで操作的には,たとえば,担当している職務について,どの程度好きか(情動的な傾き)・どれほどにやりがいを見いだせているか(評価的な傾き)・どれだけ専念しているか(実行的な傾き)を尋ね,これら3側面への応答の合成得点をもって当該職務への態度が捕捉されたものとする。このような職務態度の中核的な指標が,担当職務に対して抱く満足・不満足の感情,すなわち,職務満足(職務満足感)job satisfactionである。

【職務満足の2要因理論two-factor theory of job satisfaction】 「happy workers are productive workers仕事に満足を見いだしている人は精を出して働くものだ」とは,産業労働場面に長い間君臨した神話であった。この神話は,職場における従業員意識調査であるモラール・サーベイmorale surveyなどが暗黙裡に採択していた仮定であったが,研究が進んで,職務満足と職務遂行job performanceとの間にはもっと複雑な関係があることがわかってきた。この職務満足と職務遂行との関係に革新的な理論を唱えたのが1966年のハーズバーグHerzberg,F.の著作『仕事と人間性Work and the Nature of Man』であった。いわゆる職務満足の2要因理論,別称動機づけ-衛生理論motivator-hygiene theoryとよばれる考え方である。ハーズバーグの主張は,興味深い人間洞察を含んでいたため,膨大な検証研究がこれに続き,その結果,組織に働く人びとの心理構造への理解が深まり,職務充実job enrichmentの実践や後述する職務特性モデルへとつながっていく。

 ハーズバーグは,ピッツバーグ市内の諸産業組織に働く技師と会計士を対象に面接聞き取り調査を実施し,彼らの過去から調査時点へと至る職務経験の中で,①際立って良いと感じたときのことを,続いて逆に,②際立って悪いと感じたときのことを想起することを求め,それぞれの事態での事情を物語風に,しかしできるだけ客観的に,報告させた。すなわち,大きな満足感と大きな不満足感のそれぞれに関連していた出来事を,技師たちおよび会計士たちの組織生活の経験から採取したのである。際立って良い感情の場合には「職務の達成・達成への承認・仕事それ自体・職務遂行上での責任・職務遂行に随伴した昇進」といった職務を遂行することの内実的要因content factorに関連する言及がほとんどであり,際立って悪い感情の惹起に関連づけられて言及されたのは「会社の経営政策や管理方式・上司の監督のあり方・給与・上司との対人的関係・作業条件」といった職務を遂行する環境の文脈的要因context factorに関連する言及がほとんどであった。このようなデータに依拠して,ハーズバーグは以下のような考えを創出した。

①職務満足と職務不満足は,1次元連続帯上の対極に位置する感情ではない。それぞれは相互に分離され,かつ平行的な,二つの連続帯を構成している。

②職務満足の対極は「満足を感じないno satisfaction」(没満足)という感情状態であり,職務不満足の対極は「不満足を感じないno dissatisfaction」(没不満足)という感情状態である。

③職務遂行の内実的要因は「満足-没満足」の連続帯にのみ作用して,「不満足-没不満足」の連続帯には作用しない。対して,職務遂行の文脈的要因は「不満足-没不満足」の連続帯にのみ作用して,「満足-没満足」の連続帯には作用しない。

④このことから,内実的要因は満足化要因satisfierとも,文脈的要因は不満足化要因dissatisfierとも,よぶことができよう。

⑤満足化要因は,職務遂行への動機づけ要因motivatorでもある。それは,この要因が人が職務の遂行を通して心理的成長を図り自己実現に至ろうとする人間らしい欲求(アブラハム的欲求)を充足させる作用をもつからである。

⑥不満足化要因は衛生要因hygieneともよべよう。それは,この要因は,有機体が不快な環境を回避しようとする動物的欲求(アダム的欲求)を充足させるのみで,それが充足されたとしても,人が不満足の感情へと激しく陥っていくのを予防して精神衛生を保つ程度の作用しか発揮しないからである。

 以上が職務満足の2要因理論(動機づけ-衛生理論)の主張するところであるが,検証研究の諸結果は,満足-不満足の1次元連続帯を想定するのがより現実的であること,いずれの要因もそれが充足されれば満足感は高まり,逆に不充足があれば満足感は低まっていくこと,そして,内実的要因が職務満足に対してもつ規定力のほうが,文脈的要因がもつそれよりも大きいことを明らかにしている。

【職務特性モデルjob characteristics model】 職務と職務を遂行する人の心理的特性について,ハックマンHackman,J.R.とオーダムOldham,G.R.は職務特性モデルを提唱した。彼らは,職務を特徴づける中核的な次元core dimensionとして①技能の多様性,②職務の完結性,③職務の有意義性,④自律性,⑤結果のフィードバックに着目した。すなわち,遂行するにあたって「①多様な技能が求められ,②全体の流れがわかり,③影響範囲が広く,④自己裁量が大きく,⑤遂行結果の良しあしを自らが把握できる」特徴を内在している職務であるほどに職務遂行への動機づけも職務満足も高まっていく。ただし,358ページ図に見るごとく,以上には,職務を担当し遂行する当人の成長欲求need for growthが関与してくる。成長への欲求が弱かった場合,当該の個人にとっては,技能の多様性・職務の完結性・職務の有意義性の特性は,職務を遂行していくことの辛さ・面倒くささ・難しさ以外の何ものでもないかもしれないし,自律性と結果のフィードバックの特性は責任の重さとなって負荷してくるかもしれない,ということである。

【職務関与job involvement】 職務満足と職務遂行との間の因果関係は,「満足→遂行」と定式化できれば望ましいが,両事象の関連を継時的に分析したデータによれば,逆に「遂行→満足」の方向で定式化される。職務満足は,欠勤また離職の行動の減少へとはつながっていくが,職務遂行へのつながりは稀薄である。このような事情を背景に,職務自体,また職務を遂行すること自体に深く傾倒し,献身する度合が注目されるようになってきた。職務関与とよばれる概念である。職務関与は,仕事に「どのような意味づけをしているか・どれほどに自己を同一化し自我を関与させているか・どれだけ時間とエネルギーを注いでいるか」などを問い,個人の生活空間全体のなかで「仕事生活」がどれほどの価値と位置を占有するのかを捕捉しようとする。

 同様のことを「家族生活」との接点で問題にすれば家族関与family involvementとなる。仕事生活空間での満足や心理的安寧well-beingあるいは葛藤や危機は,家族生活空間でのそれらとどのような関連をもつだろうか。それぞれの生活空間での心理的社会的事態は,分離独立separationの関係にあり互いに影響を受けることはないのか。それとも,一方での事態は他方へと流出spilloverしていき影響を及ぼし合うのか。そして,その流出のあり方は,対等coordinationとよぶ「職務関与も家族関与もともに高まり,あるいは,ともに低まる」というあり方か,それとも,補償compensationとよぶ「一方への関与が低まるにつれて他方への関与が高まっていく」というあり方か。これらが当面の関心事項である。

 関与involvementと類似する概念に適合fitnessがある。個人の特性と環境の特性が一致しているほどに,あるいは,それぞれの特性が相補的であるほどに,環境によって引き起こされるストレス反応(ストレインstrain)が分散され,当該個人の欲求充足や満足,心理的安寧が高まり,環境への適応や同化も促進されることが想定される。進路選択や職業選択の観点からは個人と職業との適合が問題となり,仕事生活を通じてのキャリア発達の観点からは個人と組織との適合person organization fitが問題となる。しかし,適合の概念については,現状では未成熟の面もあり,今後なお理論的整序が必要である。【仕事動機づけwork motivation】 動機づけmotivationは心理学の概念であるが,経営学という応用分野における経営管理論や組織行動論では,仕事動機づけが,キャリアやリーダーシップと並んで,中心的なトピックとなっている。

モラールモチベーション 経営学の歴史の中では,課業(タスク)やしくみを扱う学説と,人間や集団を扱う学説とが交互に生まれてきた。たとえば,20世紀の初頭に生まれた科学的管理法は,タスク・マネジメントを扱い,1920年代から30年代に実施されたホーソン実験の成果は人間関係論ともよばれ,ピープル・マネジメントを扱った。後者から生まれた著作,『経営管理とモラール』(1941)で,レスリスバーガーRoethlisberger,F.J.は,モラールmorale(士気)に注目した。従業員意識調査をモラール・サーベイと今でもよぶことがあるが,生産性を向上させるのは士気であるという初期の素朴な結論には疑義が示されてきた。士気は,仕事動機づけないしは仕事意欲というよりも,職務満足という意味合いが濃厚であり,また,満足と業績との相関は弱かったので,今では動機づけの議論からは姿を消した。

⑵欲求階層説,X理論・Y理論 マクレガーMcGregor,D.M.は,マズローMaslow,A.H.の自己実現の心理学と欲求階層説を,経営学に取り込もうとした。マズローは,人の欲求は階層性をなしており,より基本的な下位の欲求(生理的欲求や安全の欲求)が満たされて初めて,社会的欲求(愛と所属の欲求)や自我・自尊心の欲求(承認の欲求もこれに近い),さらに最も高次の自己実現の欲求が姿を現わすと主張した。自己実現以外のすべての欲求は,欠乏が人を動かすという意味で欠乏動機とよばれた。これに対して,自己実現は価値動機または成長動機とよばれた。

 マクレガーは,テイラーTaylor,F.W.の科学的管理法や人間関係論が,それぞれ,生理的欲求と安全への欲求,社会的欲求や承認の欲求などの下位の欲求をもっぱら取り上げてきたことを批判した。彼は,働く従業員の下位の欲求だけを前提にする依存的な人間モデルでなく,自己実現の欲求という高次の欲求を前提にした積極的な人間モデルが企業経営に適用され,「企業の人間的側面」(同名の著書が,1960年に出版された)が前面に出てくることに期待した。レスリスバーガーらの初期人間関係論に対して,マクレガーの立場は,新人間関係論もしくは人的資源管理論human resource managementともよばれた。人的資源管理論においては,人は欠乏動機で動く依存的な存在でなく,自己実現をめざす自律的な成熟した存在であるという新たな仮定がある。彼は働く人間の動機づけについて,古い仮定をX理論,新しい仮定をY理論と名づけた。

⑶未成熟-成熟理論 マクレガーの流れに位置づけられるもう一つの学説が,アージリスArgyris,C.による未成熟-成熟理論である。

 テイラーの理論と同様に,管理過程論,管理原則論とよばれるタスク面に注目した古典的経営管理論では,マネジメントは計画,組織,指揮,調整,統制というプロセスからなり,そのサイクルを円滑に回すためには,管理の原則なるものが必要だと考えられた。しかし,分業や階層の原則,権限と責任の一致の原則,命令・指揮の一元性,従業員の安定などというファヨールFayol,J.H.の管理原則,それを敷衍した米英の管理論や行政学の諸原則は,成熟したおとなにはなじまない。アージリスは,古典的な学説を依存的な人間モデルや未成熟な人間モデルを前提にしてきたと批判した。

 アージリスによれば,会社に働く個人は,成熟したおとなとして,分業や階層の枠を超えた仕事に乗り出すこともあれば,権限より大きな責任を引き受けることもある。命令されなくても動くこともあるし,矛盾する指示を受けても,自分で判断することもできる。このような新たな観点からは,古典的な管理論の人間モデルは,未成熟な人間を念頭におくモデルであり,これからの時代の経営管理には,成熟した人間を前提にした新しいモデルが望まれる。新しいモデルは,①受動から能動へ,②依存性から独立へ,③単純化・専門化(特殊化)・標準化による仕事から,思考面でも行動面でも複雑化・多能化・多様化した仕事へ,④社会・組織の出来事への皮相な理解・関心から,深い理解・関心へ,⑤短期的展望から長期的展望へ,⑥末端・下位者という発想から向上心をもつ上位者という発想へ,⑦自己意識欠如で統制される状態から自己統制できる生成へ,の移行を伴っている点に古典的な人間モデルとの違いがある。

⑷期待理論 ブルームVroom,V.H.は,職務満足やモチベーションの理論を包括的にレビューし,仕事へのモチベーションは,努力の量に応じて諸結果(広義の報酬)がもたらされるという期待メカニズムによって説明できると主張した。その後,ポーターPorter,L.W.とローラー3世LawlerⅢ,E.E.がブルームに始まる期待理論をモデル化し,検証を行なった。このモデルによれば,働く人は,努力すれば業績がもたらされるという期待,つまり「努力→業績」期待,業績を上げた分だけ,外発的な報酬(昇進,昇給,ボーナス,上司からの承認など)と内発的な報酬(達成感や成長感)がもたらされるという期待,つまり,「業績→報酬」期待によって,仕事動機づけが決まってくる。どのような報酬に魅力を感じるか(報酬の誘意性)は,個人によって異なるので,動機づけの強度は,二つの期待を乗じたものを期待される個々の報酬の誘意性によって重みづけた値で,決まってくる。努力と業績との関係は,働く人の能力や役割知覚によって左右される。同じぐらい努力しても,能力が低く,役割を勘違いしている人は,業績は低くなる。業績が外発的報酬に結びつく度合いは,その組織が,業績依存の報酬システム(たとえば,成果主義など)を採択しているかどうかによって影響を受ける。このように期待理論は,これまでにない包括的なモデルであった。

⑸目標設定理論 ロックLocke,E.A.とレイサムLatham,G.P.が構築した目標設定理論は,期待理論と同じころに提唱されたが,その後も長期にわたって多数の実証研究を生み出した。目標設定は,経営管理の根幹にもかかわり,また目標管理制度などわが国独自の管理方法もあるため,松井賚夫と角山剛らによる日本の研究者からの貢献が目立つ領域である。レイサムが著わした『ワーク・モティベーションWork Motivation』(2006)にモチベーション論の全体系が,集大成されている。

 目標設定理論では,多数の実証研究から次のような基本仮説が確認されてきた。特定的(具体的)で,困難な(高い)目標は,「最善を尽くせ」というような容易で曖昧な目標と比べて,より高度な課題達成をもたらす。人が,目標にコミットし,目標達成に必要な能力を有し,矛盾するほかの目標に煩わされない限り,目標の困難度と課題の達成の間には正の関係がある。目標は,将来に価値のある成果に言及しているので,目標設定とは,現状の業績との乖離を創出する過程にほかならない。目標と業績の乖離の認知が,現状への不満となる。不満のまま放置できないので,成果を上げ目標を達成するために,人はがんばる。目標設定理論において,目標の特徴を記述し測定する次元は,前記からわかるとおり,目標の特定性goal specificity(目標の明瞭性goal clarityともいわれる),目的の困難度goal difficulty,目標に対する関与度goal commitment(初期の研究では,目標の受容goal acceptance)である。

 目標は,業績に関する自分の満足度を左右する標準となるがゆえに,感情にもかかわる。困難な目標は,容易な目標と比べ,自分を満足させるには,より多くを達成することを要請する。重要で意味深い目標を追求し達成することによって,人は成長し,職務上の挑戦に立ち向かえるようになる。職場における成功感は,ここから生じる。

 目標設定は方向性(選択),強度(努力の大きさ),持続性という動機づけの3次元すべてに影響する。①目標は,注意と行動を,目標に関連する行動に集中させ,目標と関連のない行動を排除することによって,働きかける方向性を調整する。②目標は,その重要度によって決まる行動の強さと,それに付随する情緒に影響を与える。価値の高い目標が難しいほど,それを達成するための努力は強度を増す。③価値の高い目標は持続性に影響を与える。ロックとレイサム(2006)が「目標は,自己調整の鍵となる要素である」と指摘しているとおり,目標は,自分を動かすだけでなく,他の人を動かす。共同してもらうには,集団目標が影響力の鍵を握る。

 目標設定理論は,期待理論とともに,組織行動論における統合的・包括的理論と位置づけられる。同理論で提示された高業績サイクル・モデルでは,期待理論と並び,多くの重要な変数を他の有力理論から取り込んでいる。期待メカニズムの実証研究はもはや継続されていないが,目標理論は今なお,第一線で実証のフロンティアがある。また,目標による管理management by objectives(MBO)がドラッカーDrucker,P.とマクレガーによって提唱されて以来,目標は経営管理の根幹をなす概念であり,わが国の企業においては目標管理の名のもとに現在も重要な役割を果たしている。 →組織行動 →態度
〔南 隆男〕・〔金井 壽宏〕

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