耐火建築(読み)たいかけんちく

精選版 日本国語大辞典 「耐火建築」の意味・読み・例文・類語

たいか‐けんちく タイクヮ‥【耐火建築】

〘名〙 耐火材料を用いた建築火災に耐えうる建築。
※新版大東京案内(1929)〈今和次郎〉東京の顔「此の不景気に耐火建築を建てると云ふ」

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改訂新版 世界大百科事典 「耐火建築」の意味・わかりやすい解説

耐火建築 (たいかけんちく)

耐火性能をもつ構造部材で構成される建物をいい,内部から出火しても通常の火災の火熱に十分耐え,火災後僅少の修理により再使用可能なことを目的とする。さらに,防火建築と同様,隣接建物からの延焼も防ぐことが目的とされる。

 耐火性能をもつ構造部材としては,鉄筋コンクリート煉瓦,石,ブロックおよび耐火被覆された鉄骨がある。歴史的には,燃えないものでつくられた建物であれば耐火性能を有すると考えられてきた(土蔵造)。ところが,19世紀後半,アメリカの各地で起こった都市大火鉄骨造の建物がいくつも崩壊したため,他の構造部材と異なり,鉄骨造の建物に耐火被覆の必要性が認識された。この火災被害について統計的資料を精力的に整理し,支持部材のための耐火被覆の処理を細目にわたり示したJ.K.フライターグらの努力により,現在では図1のような耐火被覆の鉄骨造が高層建築に多く用いられている。

 一方,鉄骨と同様に大量に用いられてきた鉄筋コンクリートは,建物の荷重を支えるための仕様がそのままで必要とされる耐火性能をほぼ満足するため,耐火性能が問題となることはなかった。ただし,鉄筋コンクリートでも,コンクリートのかぶり厚さ(表面から鉄筋までの最短距離)が十分でなければ,鉄筋の温度が上昇し,強度が低下するのは当然である。このため後述する耐火試験の考え方に従って,耐火性能を保持するために必要な仕様が,それぞれの構造部材に対して建築基準法施行令により示されている。

被災しても再使用が可能な構造を得るためには,まず火災になった場合,対象とする構造部材がどの程度の熱をどのくらいの時間受けるかを知ることが必要である。火災室温の上昇は,開口部の大きさに応じて室内での発熱量を推定し,周壁面への熱吸収,流出する煙による放熱などの熱収支から計算できる。このような計算値と経験に基づき,平均的な火災室の温度上昇を示すものとして,標準加熱温度曲線(図2)がある。

火災の継続時間は,室内にある可燃物の量(火災荷重)を,開口部の大きさから決まる燃焼量で割ることで推定可能である。一般的な条件では,室床面積当りの火災荷重50kg/m2で20~130分,100kg/m2で35~200分といわれており,この時間の間,部材が火熱に耐え,次項の条件を満たせばよい。ただし,実際に使用される状態での火災荷重を事前に知ることは不可能なため,建築基準法では,特殊建築物に対する最低の基準として,上階への影響の大きい順に必要な耐火時間を図3のように定めている。

必要とされる耐火時間の間,構造部材を標準加熱温度曲線に従って加熱し,以下に示す条件から定められたいくつかの項目を満足すれば,耐火性能を有すると判定される(JIS A 1304,建築構造部分の耐火試験方法)。

(1)構造部材を介して火炎が伝搬することは,まず第1に避けるべきである。このため,壁,床に使用される部材は加熱中に火炎の通る割れ目を生じないこと,裏面温度が260℃(木材の引火温度)を超えないことが要求される。

(2)崩壊を避けるためには,加熱中に構造部に生ずる応力度が,構造材料の高温時の許容応力度を超えないことが必要である。このため,建築物の部分および構造の種類に応じて,鋼材温度の最高または平均値の上限が決められている。例えば,被覆された鉄骨造の場合には,柱,はりの平均温度の上限は350℃である(鋼材では,温度が300℃を超えると強度が著しく低下する)。

建築基準法により,図3でとり上げるような大規模な建築物では,主要構造部をすべて耐火構造とすることが要求される(耐火建築物という)が,おもに2階建て以下の建築物を対象に,簡易耐火建築物の規定がある。これには,ほかからの延焼を防止するよう外壁を耐火構造にするものと,主要構造部を不燃材料もしくは準不燃材料でつくる不燃軸組構造の2種類がある。
防火
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