縫製業(読み)ほうせいぎょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「縫製業」の意味・わかりやすい解説

縫製業
ほうせいぎょう

広く繊維産業における最終商品加工業の一つで、いろいろな衣類の縫製加工を行う。おもに布地のほかに、毛皮、皮革、ビニルシートなどをも裁断し、手またはミシンで縫合加工を行い、和服、洋服、オーバー、ジャンパーワイシャツ、下着類、手袋レインコートなどの被服類、ハンカチーフハンドバッグスリッパなどに仕立てる工業の総称。注文生産ともいうべき個々に縫製する仕立業から、既製品を大量に規格生産する比較的大規模の縫製工業に至る多種多様な形態があるが、家内工業的な中小資本の経営が多いとはいえ、最近のアジアNIES(ニーズ)(新興工業経済地域)からの追い上げや競争もまた厳しい。

 第二次世界大戦前には兼営織布とよばれた巨大紡績資本による織物業兼営はあったが、縫製業にまでは進出していなかった。戦後には、合成繊維産業の急速な展開に対応して、綿紡績業の相対的縮小がみられ、最近では構造的不況業種の代表に繊維産業全般が擬せられるに至っている。かかる条件の変化につれて、戦前の五大綿商社を淵源(えんげん)にもつ総合商社が綿スフ・人絹の織物業者を輸出向けに系列化したり、合繊・紡績両メーカーともに縫製業の系列化に乗り出しており、構造的不況が深刻化するなかで、競争の激化淘汰(とうた)が繰り返されている。また中小縫製業に対する政策として、中小企業団地の造成招致もみられ、パートタイム労働に依存することとも重なって、縫製業の近郊都市や農村部への移転も生じた。しかし、1970年代以降、アジアへの世界の紡績機械織機の集中が着実に進行し、逆に日本の縫製業はアジア諸国からの輸入増大によって大きな打撃を受け、1990年代に入って、タオル・ニット製品の業界では、世界貿易機関(WTO協定に基づく「繊維セーフガード」(緊急輸入制限)措置を発動するよう日本の通商産業省(現経済産業省)に要請している。

[加藤幸三郎]

『楫西光速編『現代日本産業発達史11 繊維 上』(1964・現代日本産業発達史研究会)』『三輪芳郎編『現代日本の産業構造』(1991・青木書店)』『通商産業省生活産業局編『世界繊維産業事情――日本の繊維産業の生き残り戦略』(1994・通商産業調査会)』『富沢修身著『構造調整の産業分析』(1998・創風社)』『丸屋豊二郎編『アジア国際分業再編と外国直接投資の役割』(2000・日本貿易振興会アジア経済研究所)』『伊丹敬之他編著『日本の繊維産業――なぜ、これほど弱くなってしまったのか』(2001・NTT出版)』『藤井光男編著『東アジアにおける国際分業と技術移転――自動車・電機・繊維産業を中心として』(2001・ミネルヴァ書房)』

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