内科学 第10版 「粘膜脱症候群」の解説
粘膜脱症候群(非特異性腸管潰瘍)
概念
粘膜脱症候群(MPS)とは,排便時のいきみ習慣を背景とし,顕在または潜在性の直腸粘膜脱に伴う粘膜の虚血や過形成性変化の結果,直腸前壁を主体に隆起や潰瘍を形成する症患群である.
本症は,1969年Morsonらが直腸の前壁を主体とした潰瘍68例の臨床病理学的検討を報告し,直腸孤立性潰瘍(solitary ulcer of the rectum)とよばれた.その後,1983年Boulay(du Boulayら,1983)らが,粘膜脱(mucosal prolapse)が深く関与していることを提唱し,直腸孤立性潰瘍症候群や,限局性深在囊胞性大腸炎(localized colitis cystica profunda)といった呼称を廃した.本症は,直腸粘膜脱を合併し,患者背景としていきみ習慣者が多く,かつ病理学的に類似性があることから,現在はMPSとの呼称に統一されている.
本疾患の組織学的特徴は,腺管の過形成とともに粘膜筋板から粘膜固有層の間質に延びる平滑筋線維の増生(線維筋症,fibromusculosis)である.
症状として下血,粘膜排出,残便感,便意頻数があり,肉眼型は,平坦型,隆起型,潰瘍型に分類される(太田ら,1990).隆起型や平坦型は肛門管近傍に,潰瘍型はその口側に好発し,多くは前壁に存在する.
鑑別として,多くの直腸の上皮性腫瘍性疾患や炎症性疾患があげられる.排便習慣の問診と臨床像,さらには生検により線維筋症を証明すれば診断が確定する.
治療は保存的治療が主で,排便習慣の改善が中心となる.[松井敏幸]
■文献
du Boulay CE, Fairbrother J, et al: Mucosal prolapse syndrome―a unifying concept for solitary ulcer syndrome and related disorders. J Clin Pathol, 36:1246-1268, 1983.
太田玉紀,味岡洋一,他:直腸の粘膜脱症候群―病理の立場から.胃と腸,25:1301-1311,1990.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報