粘膜脱症候群(読み)ねんまくだつしょうこうぐん

六訂版 家庭医学大全科 「粘膜脱症候群」の解説

粘膜脱症候群
ねんまくだつしょうこうぐん
Mucosal prolapse syndrome
(直腸・肛門の病気)

どんな病気か

 排便の時に強くいきむことを習慣にしていると、直腸粘膜がたるんで脱出するようになります。粘膜のたるみが生じると、排便してもすっきりしなくなるために、さらにいきむようになります。

 そのため、直腸粘膜が傷ついたり、粘膜の血流が乏しくなることで、直腸に潰瘍隆起病変ができる病態を粘膜脱症候群といいます。女性に多く、20代から症状が始まり、30~50代で診断されることが多い病気です。

原因は何か

 慢性的ないきみをもたらす要因としては、骨盤底を支える筋肉などの組織が弱くなることや、排便の時に本来ゆるむべき筋肉(恥骨直腸筋(ちこつちょくちょうきん))が逆に収縮する現象などが考えられます。

 脱出する粘膜はこすられて表面に傷がつき、また、粘膜が折り重なるため粘膜の血流が悪くなり、潰瘍が生じます。いったん潰瘍が生じると、さらに便意をもよおさせるという悪循環が成り立ちます。

症状の現れ方

 ほとんどの場合、排便のたびに強くいきまないと出ないことが長年の習慣となっており、次第に出血粘液分泌肛門痛、排便後もすぐトイレに行きたくなる(テネスムス)といった症状が現われます。

検査と診断

 この病気が疑われる場合は、直腸鏡検査、大腸内視鏡検査、注腸検査を行います。これらの検査で、直腸粘膜に潰瘍や隆起性病変が認められる場合は、粘膜の一部をとって顕微鏡で調べる生検を行い、粘膜脱症候群の特徴である線維筋症(せんいきんしょう)が確認できれば、粘膜脱症候群と診断されます。

治療の方法

 治療の基本は、繰り返しいきむことにより排便しようとする習慣をやめることです。そのためには緩下剤(かんげざい)食物繊維を利用し、必要があれば坐薬浣腸を用いて短時間で排便をすませるようにします。

 肛門外に脱出する場合は、痔核(じかく)の手術に準じて脱出する粘膜の結紮(けっさつ)切除術を行います。

山名 哲郎

粘膜脱症候群
ねんまくだつしょうこうぐん
Mucosal prolapse syndrome
(食道・胃・腸の病気)

どんな病気か

 排便時の長年にわたる過度の“いきみ”によって直腸粘膜の脱出が起こり、多くは直腸の前壁に潰瘍性の病変や隆起性の病変など多様な形態をとり、それらが混在することもあります。比較的最近になってから認識され、その病態が明らかになってきた病気です。

原因は何か

 排便時の長年にわたるいきむ習慣により、直腸の粘膜が肛門部に向かって顕在性または潜在性に脱出しますが、これにより粘膜に血流障害が発生して、潰瘍性の病変や隆起性の病変が引き起こされるとされています。

症状の現れ方

 主な症状は出血、粘液分泌、肛門痛、排便困難、残便感などです。ほとんどの人は排便時にいきむ習慣をもっています。

検査と診断

 直腸鏡、大腸内視鏡検査、大腸X線検査などで診断します。大腸内視鏡検査では直腸の中下部の前壁に、大きさや形がさまざまな白苔(はくたい)を伴った浅い潰瘍をつくるものから、発赤やびらんを伴ったいろいろな隆起をつくるものまで、さまざまな所見がみられます。隆起したものでは直腸がんポリープと間違われたり、潰瘍性のものでは大腸がんやさまざまな炎症性腸疾患との区別が難しかったりすることもあります。

 粘膜脱症候群の病変は、潰瘍性の病変や隆起性の病変が混在することもあり、病変の大きさや形もさまざまで、発赤や点状出血、びらんがみられたり、病変が全周性にみられることもあります。内視鏡検査での生検組織検査で、粘膜固有層平滑筋線維と線維組織の混在と増生(線維筋症)、炎症細胞の浸潤(しんじゅん)がみられたら確定診断できます。

治療の方法

 治療の基本は、繰り返しいきんで排便しようとする習慣をやめることです。そのほか、緩下剤(かんげざい)の投与や食物繊維を多くとり排便習慣を整えることも有効です。保存的な治療で改善しない場合には、痔核の治療に準じたゴム輪結紮(けっさつ)や外科的な手術などで治療します。

坂田 祐之, 藤本 一眞

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「粘膜脱症候群」の解説

粘膜脱症候群(非特異性腸管潰瘍)

(4)粘膜脱症候群(mucosal prolapse syndrome:MPS)
概念
 粘膜脱症候群(MPS)とは,排便時のいきみ習慣を背景とし,顕在または潜在性の直腸粘膜脱に伴う粘膜の虚血や過形成性変化の結果,直腸前壁を主体に隆起や潰瘍を形成する症患群である.
 本症は,1969年Morsonらが直腸の前壁を主体とした潰瘍68例の臨床病理学的検討を報告し,直腸孤立性潰瘍(solitary ulcer of the rectum)とよばれた.その後,1983年Boulay(du Boulayら,1983)らが,粘膜脱(mucosal prolapse)が深く関与していることを提唱し,直腸孤立性潰瘍症候群や,限局性深在囊胞性大腸炎(localized colitis cystica profunda)といった呼称を廃した.本症は,直腸粘膜脱を合併し,患者背景としていきみ習慣者が多く,かつ病理学的に類似性があることから,現在はMPSとの呼称に統一されている.
 本疾患の組織学的特徴は,腺管の過形成とともに粘膜筋板から粘膜固有層の間質に延びる平滑筋線維の増生(線維筋症,fibromusculosis)である.
 症状として下血,粘膜排出,残便感,便意頻数があり,肉眼型は,平坦型,隆起型,潰瘍型に分類される(太田ら,1990).隆起型や平坦型は肛門管近傍に,潰瘍型はその口側に好発し,多くは前壁に存在する.
 鑑別として,多くの直腸の上皮性腫瘍性疾患や炎症性疾患があげられる.排便習慣の問診と臨床像,さらには生検により線維筋症を証明すれば診断が確定する.
 治療は保存的治療が主で,排便習慣の改善が中心となる.[松井敏幸]
■文献
du Boulay CE, Fairbrother J, et al: Mucosal prolapse syndrome―a unifying concept for solitary ulcer syndrome and related disorders. J Clin Pathol, 36:1246-1268, 1983.
太田玉紀,味岡洋一,他:直腸の粘膜脱症候群―病理の立場から.胃と腸,25:1301-1311,1990.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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