歌・謡・唄・謳(読み)うたう

精選版 日本国語大辞典 「歌・謡・唄・謳」の意味・読み・例文・類語

うた・う うたふ【歌・謡・唄・謳】

[1] 〘他ワ五(ハ四)〙
① 声に節を付けて歌詞を唱える。
(イ) ことばを引き延ばしたりして節を付けて声を出す。楽器に合わせるのを正式とする。
古事記(712)中・歌謡「この御酒(みき)を 醸(か)みけむ人は その鼓(つづみ)(うす)に立てて 宇多比(ウタヒ)つつ 醸みけれかも」
源氏(1001‐14頃)若紫「弁の君〈略〉『豊浦の寺の西なるや』とうたふ」
(ロ) 詩歌を作って吟じる。また、詩歌を作る。詠じる。
※伊勢物語(10C前)六五「男は〈略〉かくうたふ。いたづらに行きはてきぬる物ゆゑに見まくほしさにいざなはれつつ」
② 盛んに言いたてる。
(イ) 多くの人がほめたたえる。楽しんで声を出す。謳歌(おうか)する。
平家(13C前)五「都鄙遠近隣民親疎、堯舜無為の化をうたひ」
(ロ) 評判をたてる。うわさする。→謳(うた)われる
(ハ) 目だつように主張する。書類などにはっきり書き記す。
当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉九「卑屈な儒者に唱(ウタ)はせたる、一時便宜の道徳論なり」
③ 物を言う。話す。
新編常陸国誌(1818‐30頃か)方言「うたふ 語話するを云ふ、古意なり」
[2] 〘自ワ五(ハ四)〙
① (比喩的な用法として) 高い声を出す。調子のついた音を出す。
(イ) 鳥、虫などが鳴く。特に、鶏が時を告げる。
※清輔集(1177頃)「天の戸をおし明け方にうたふなりこや鶯の朝倉の声」
(ロ) 悲鳴をあげる。泣く。
※歌舞伎・花雪恋手鑑(1833)下「もし金がなけりゃ引摺(ひきず)って行てうたはすのぢゃ」
(ハ) 川などが小さな音を立てる。
※草根集(1473頃)四「川の瀬にうたふさざ浪露かけて木陰涼しき蝉の諸ごゑ」
② 悪くなることをいう、文政期(一八一八‐三〇)の大工仲間の隠語
※新ぱん普請方おどけ替詞(1818‐30頃か)「わるなるを、うとう」
③ 死ぬ。また、倒産する。
浜荻久留米)(1840‐52頃)「うたふた 人の死たるを云、又身上しまうたことをも云」
④ 白状することをいう、てきや、盗人仲間の隠語。〔日本隠語集(1892)〕
※いやな感じ(1960‐63)〈高見順〉二「正直にウタって(白状して)おこう」
[語誌](1)歌は「うたふ」だけでなく「かたる」ことにも通じていたことは「以歌語白(歌を以ちて語りて白さく)」という「古事記‐仁徳記」からうかがえる。また「万葉集」でも、歌を「うたふ」とするものは少なく、「作歌(歌を作る)」とするのが最も多い。ただ「作」をツクルと訓むかヨムと訓むかという問題もあり、一概に歌はうたわれたものだとはいえないようである。
(2)平安時代になると、すでに作られた歌を「うたふ」ことはあっても、歌を作ることを「うたふ」とは言わない。むしろ「うたふ」は、歌よりも歌謡について用いられるようになり、歌は「よむ」ものとなっていった。

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