核整列(読み)かくせいれつ(英語表記)nuclear orientation

改訂新版 世界大百科事典 「核整列」の意味・わかりやすい解説

核整列 (かくせいれつ)
nuclear orientation

原子核スピンの向きが空間的に非等方的な分布をしているとき,核整列しているといい,またこのような分布を人為的に作ることも核整列という。量子化軸zへのスピンの斜影がすべて等しくは占められていないことに相当する。z軸に対してスピンの向きが平行あるいは反平行にかたよっているとき,その整列を偏極またはポラリゼーションpolarizationと呼び,z方向と-z方向には等しいが,xy方向には異なる分布をもつ整列をアラインメントalignmentと呼ぶ。核整列を起こさせるには大別して,(1)核磁気モーメントに核外から磁場をかけ,ゼーマン効果などを起こさせたうえで低温にし,熱平衡状態を実現させることによる方法,(2)ある核子と電子の系に過渡的に整列の現れるのを利用する方法,(3)低温で電子スピンを整列させ,核スピンと電子スピンの相互作用を利用し,両者に同時反転を起こさせ,これによって非平衡状態として整列を実現するダイナミックポラリゼーションの方法,(4)核反応の残留核による方法などがある。(1)の熱平衡法では適当な緩和時間をもつ系に強力な外部磁場と極低温を用いることがまず考えられる。しかしこのような方法は,例えばコバルト60(60Co)に対して105エルステッド,0.01Kという条件を要するのであまり実際的ではなく,電子系の作る超微細場を活用するのが便利である。このような方法に,強磁性体中の微量原子核に働く強い内部磁場を使う方法,常磁性イオンを比較的弱い外部磁場で偏極させることにより内部磁場を作る方法,軸方向の定まった結晶電場中での常磁性イオンの軌道運動のそろいとスピン軌道角運動量結合を利用する方法,同様に結晶中での四重極相互作用を利用する方法などが成功している。(2)の過渡的方法は,超微細相互作用と外部磁場との相互作用のある系で,磁場を減少させ,ゼーマン領域からパッシェンバック領域へ移行したとき,その変化に比べ,スピン格子緩和時間が十分長いと,状態間の遷移がないという事実を利用している。(3)のダイナミックポラリゼーションには,マイクロ波により同時反転を起こさせるもの,円偏光した可視光により選択的な励起を行い偏極を作る光ポンピングなどが代表的である。(4)の原子核反応後の残留核は一般には整列している。とくに複合核反応では入射粒子のもち込む軌道角運動量が大きなアラインメントを作り,核子などの蒸発後も残る。また発生粒子や反跳残留核の運動学条件を押さえることによって偏極を作りだすこと,偏極ビームにより偏極生成核を作ることなど,よく用いられる実験的手法である。

 アラインメントのある核からのγ線は一般にP2cos θ)のような偶次の非対称性をもつことと直線偏光していることが特徴としてあげられる。これらはγ線の多重極度や始めと終りの状態のスピンおよびパリティに依存している。偏極核からのγ線も同様な強度分布を示すが,一般には円偏光を伴う。β線について見ると,パリティ非保存のため,核偏極によりβ線角度分布にP1(cos θ)に比例する非対称項が現れる。整列核はさまざまな用途に用いられるが核反応実験の標的としては,反応あるいは散乱断面積のスピン依存部分を求めるのに有効であり,放射性崩壊の親核とすれば分光学のさまざまな手段を駆使できる。加速器で偏極核のビームを加速することは同様に重要でいろいろなイオン源が開発されており,陽子,重陽子などの偏極ビームが得られている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「核整列」の意味・わかりやすい解説

核整列
かくせいれつ
nuclear ordering; nuclear orientation

物質の核スピンの状態が,ある種の秩序状態にあること。核偏極ともいう。物質を冷却してゆくと,熱的な攪乱が小さくなって物質固有の基底状態が実現し,これを秩序状態にあるという。たとえば,強磁性は電子スピン系の秩序状態の1種である。核スピンは,磁気モーメントが電子スピンの磁気モーメントと比べて約 2000分の1程度に小さく,また局在しているので,核スピン間の相互作用は非常に小さい。そのため核スピン系は極低温においても無秩序な状態にある。核整列を起させるには,核スピンと外部磁場の相互作用を用い,10mK程度の低温度で 10T程度の磁場を加える。強磁性体中の核スピンは,強い内部磁場により同様に核整列する。外部磁場なしに核スピン間の相互作用だけで核整列する温度は非常に低く,双極子相互作用の場合は 1μK 程度である。しかし,量子効果が大きい固体ヘリウム3の場合には交換相互作用により約 1mKで整列する。動的偏極法は,外部磁場のもとで電子スピンを整列させておき,マイクロ波を加えて電子スピンを攪乱させて電子スピン系が秩序状態に戻ろうとするときに電子スピンと核スピンの磁気的相互作用で核スピン系も同時に整列させる方法である。核物理実験の偏極ターゲットなどに利用される。

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