柳沢騒動物(読み)やなぎさわそうどうもの

改訂新版 世界大百科事典 「柳沢騒動物」の意味・わかりやすい解説

柳沢騒動物 (やなぎさわそうどうもの)

歌舞伎の一系統。柳沢騒動を材料にした作品群をいう。柳沢吉保は,小身者から将軍徳川綱吉の寵愛(ちようあい)を得て大大名に出世したが,実録本の《護国女太平記》は吉保を野望をもつ悪人として描き,講釈ではお家騒動風に脚色して語られた。歌舞伎の作品はこれらを材料にして作られた。最初は1793年(寛政5)1月大坂中の芝居の辰岡万作・近松徳叟作の《けいせい楊柳桜(やなぎさくら)》で,柳沢騒動に淀屋辰五郎の話を配している。ついで1819年(文政2)5月江戸玉川座の4世鶴屋南北作《梅柳若葉加賀染(うめにやなぎわかばのかがぞめ)》。これは加賀騒動物の《加賀見山廓写本(かがみやまさとのききがき)》に仮託して柳沢騒動を脚色したもので,多賀の大領には将軍綱吉を,望月帯刀には柳沢吉保を当てこんでいる。明治に入って1875年8月東京中村座の河竹黙阿弥作《裏表柳団画(うらおもてやなぎのうちわえ)》は,柳沢騒動の時代物の筋に出羽屋忠五郎と武蔵屋徳兵衛の世話物の筋をないまぜた作品。また1970年5月,国立劇場で上演された宇野信夫作の《柳影沢蛍火(やなぎかげさわのほたるび)》は,傑作との世評を得た。
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