旧石器遺跡捏造(読み)きゅうせっきいせきねつぞう

改訂新版 世界大百科事典 「旧石器遺跡捏造」の意味・わかりやすい解説

旧石器遺跡捏造 (きゅうせっきいせきねつぞう)

1980年代から,東北地方で座散乱木遺跡(4万2000年前),馬場檀A遺跡(17万年前),上高森遺跡(70万年前)など前期中期旧石器時代の遺跡が次々に発見されたが,実は縄文時代の石器を意図的に埋め込んだ捏造であったことが2000年に露見し,考古学者全体に対する国民の信頼が大きく失墜した事件。実際に石器を埋め込んだのは東北旧石器文化研究所の藤村新一だが,それを見逃し,同調したのは,同研究所の鎌田俊昭や東北福祉大学の梶原洋,そして,それを権威づけたのは文化庁の岡村道雄だった。さらに,その周りで持ち上げ利用したのは,考古学界のオピニオンリーダーたちとマスコミ各社だった。石器を埋め込んだ地層の年代は自然科学的方法で適切に推定されたので,考古学者たちは〈石器形式よりも出土層序が優先する〉という原則に従って盲目的に信じ込んでしまった。考古学者の中でも小田静夫や竹岡俊樹たちは以前から批判していたが,オピニオンリーダーたちには受け入れられなかった。人類学者の馬場悠男は,マスコミから前期・中期旧石器遺跡発見に関してコメントを求められるたびにインチキであると指摘していたが,マスコミは無視を続けた。そして,ようやく2000年に,新聞記者が,上高森遺跡などにおいて藤村が石器の埋め込み作業をするところをテレビ撮影したことにより捏造が露見した。その後,日本考古学協会の考古学関係者による遺跡の検証が徐々に進み,藤村の関与した遺跡は前期・中期旧石器時代ではない,あるいは遺跡ですらないことが明らかになった。ただし,その検証の過程が不透明であったという批判,さらには日本考古学界の根本的浄化が行われていないという批判が残されている。なお,本件は遺跡捏造であって,石器捏造ではない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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