指導要録(読み)シドウヨウロク

デジタル大辞泉 「指導要録」の意味・読み・例文・類語

しどう‐ようろく〔シダウエウロク〕【指導要録】

小・中・高等学校で、個々の児童・生徒の身体・学力・性向などの発達状況を継続的に記録する表簿。進学先には抄本を送り、原本は作成校に残す。保存期間20年。

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精選版 日本国語大辞典 「指導要録」の意味・読み・例文・類語

しどう‐ようろく シダウエウロク【指導要録】

〘名〙 学校に在学する児童生徒の学習などの状況について記録した書類の原本。公立学校では記入要領や取り扱い要領は教育委員会で定められている。公的な記録であって学校で制定する通信簿の類とは違うもの。
※学校教育法施行規則(1947)一五条「別に定めるもののほか、指導要録及びその写にあっては二十年間〈略〉これを保存しなければならない」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「指導要録」の意味・わかりやすい解説

指導要録
しどうようろく

小・中・高等学校に在学する児童・生徒の現住所、保護者などのほか、出欠状況、学習状況などを累加的に記録し、指導に役だてるとともに、進学、就職などの際の証明のための原本となる表簿である。学校教育法施行規則第24条によって、その作成義務は校長にあるとされており、同規則第28条によって、「学校において備えなければならない表簿」とされ、保存の期間は、指導に関する部分については5年間、学籍に関する部分は20年間とされている。第二次世界大戦前の学籍簿は、在学する児童・生徒の指導に役だてるよりは、戸籍簿的な機能を重視して作成されていた。戦後、学籍簿が廃され、児童・生徒の指導の過程や結果を累加的に記録し、児童・生徒への理解を深め、指導に生かすという機能を重視した指導要録が誕生し、学籍簿にかわることとなった。その後、数次の改訂が加えられ現行のものとなっている。

 指導要録の様式・内容等については、学校を管理する市町村教育委員会および都道府県教育委員会が、文部科学省の示す参考案を基準にして定めることとされるが、全国的にほぼ同様のものとなっている。また、指導要録の作成責任者は各学校の校長であるが、実際の記入は学級担任教師が、教科担任などから提出された成績をとりまとめて記入している。児童・生徒が転学、あるいは進学した場合には、指導要録の写しまたは抄本を作成して、転学先(進学先)の学校に送付することになっており、いわば児童・生徒を指導する教師にとって、医師のカルテのような役割が期待されている。

指導要録の内容

指導要録に記入される内容は次のようなものである。

〔1〕学籍に関する記録
(1)学年・学級・整理番号、(2)学籍の記録(児童・生徒の氏名・生年月日・現住所・性別、保護者の氏名、入学・編入学の記録、転入学の記録、転学・退学等の記録、卒業の記録、入学前の経歴、進学先)、(3)学校名、所在地、(4)校長氏名印・学級担任氏名印
〔2〕指導に関する記録
(1)児童・生徒の氏名、学校名、学級、整理番号、(2)各教科の学習の記録(観点別学習状況・評定)、(3)総合的な学習の時間の記録、(4)特別活動の記録、(5)行動の記録、(6)出欠の記録、(7)進路指導の記録(中学校・高等学校のみ)
 なお、総合所見および指導上参考となる諸事項は別葉となっている。

指導要録における評価法

指導要録の主体となる観点別学習状況の評価は3段階で示され、各教科の学習の評定の表示は、小学校低学年では廃止、小学校第3学年以上では3段階、中学校の必修科目では5段階(相対評価)、中学校の選択教科は3段階(絶対評価)によって示すが、高等学校については、原則として生徒が教科の目ざす目標にどれだけ到達しているかによって評定を行う絶対評価の方法をとる。小・中学校では、各教科の目標(たとえば「関心・意欲態度」「思考・判断」「知識・理解」など)に対する到達度を示す観点別学習状況を主体に、絶対評価中心の評価を行い、さらに前記の二つを補うための所見によって、学習状況を分析的に、また総合的、多面的にとらえようとしている。また、行動の記録は、「基本的な生活習慣」「明朗・快活」「自主性・根気強さ」などの項目ごとに、学校で作成した評価基準に照らして、優れているものには+を記入する(その比率は考慮しない)。

 指導要録の改訂は、学習指導要領の改訂に伴ってそのつど行われてきたが、1998年(平成10)の学習指導要領の改訂に伴う指導要録の参考案の改訂趣旨は、以下の諸点にある。

(1)基本的な評価法を集団のなかの順位(相対評価)ではなく、目標の達成度(絶対評価)に改める
(2)指導要録の記述の中心に「総合所見」欄や「総合的な学習の時間」の評価欄を新設する
(3)意欲や思考力を測る全国的な学力調査を実施して指導要領の効果をみる
 1998年(平成10)改訂の新学習指導要領以前の指導要録では「観点別評価」を主体として、これを踏まえて「相対評価」を加味した「評定」を行うが、あくまでも評価の主体は絶対評価の「観点別評価」にあり、「評定」の部分はもっぱら内申書などの入学試験関係に利用されてきた。1998年の改訂ではこの「評定」も「絶対評価」に改められ、「相対評価」は表面上は指導要録から姿を消した。しかし、相対評価は「評定」から脱落したものの「総合所見及び指導上参考となる諸事項」欄には記録され、かならずしも指導要録から姿を消したわけではない。実際に内申書でものをいうのは、この相対評価を示した部分と考えられ、評価法が全面的に相対評価から絶対評価に改められたとはいいがたい。

 2001年(平成13)には指導要録の様式の改善が行われた。その要点は以下の通りである。

〔1〕小・中学校の指導要録は、(1)各教科の評定について、学習指導要領に示す基礎的・基本的な内容の確実な習得を図るなどの観点から、学習指導要領に示す目標に照らしてその実現状況を評価することに改める。(2)「総合的な学習の時間」について、各学校で評価の観点を定めて、評価を文章記述する欄を新たに設ける。(3)「生きる力」の育成を目ざし、豊かな人間性を育てることが重要であることを踏まえ、「行動の記録」の項目を見直す。(4)「生きる力」は全人的な力であることを踏まえ、児童・生徒の成長の状況を総合的にとらえる工夫ができるようにする趣旨から、所見欄等を統合する。

〔2〕高等学校の指導要録は、各教科・科目の評定については、「関心・意欲・態度」「思考・判断」「技能・表現」「知識・理解」の四つの観点による評価を十分踏まえるとともに、「総合的な学習の時間」について、評価を文章記述する欄を新たに設ける。

〔3〕盲学校・聾(ろう)学校・養護学校(現特別支援学校)の指導要録は、児童・生徒の障害の状態に応じた指導の目標の実現状況の評価や個人内評価を重視することとし、「自立活動」の欄の設定、個別の指導計画を踏まえた評価の推進、教育課程や学習指導の状況および障害の重度・重複化や多様化等に応じた適切な記録の充実などの改善を図る。

 通信簿は、このような指導要録の内容に基づきながら、親に子供の学習状況や行動をわかりやすく知らせるため、各学校ごとにさまざまなくふうを加え、様式を定めている。

指導要録の開示

指導要録の開示については、かつて全面開示、部分開示、非開示のいずれかの方法がとられてきたが、1990年代以降、教育情報公開の趨勢(すうせい)に従い指導要録も全面開示の方向に向かっている。在校生に対する全面開示を認めた例もある。また、かねて消極的だった判例も漸次積極的に全面開示の方向へ向かっている。

[宇留田敬一・下村哲夫・窪田眞二]

『神保信一・石田恒好・岩崎袈裟著『教育評価と指導要録』(『中学校教育実践講座 18巻』所収・1982・ぎょうせい)』『下村哲夫著『新・教育課程の法律学――教科書・指導要録・体罰』(1992・学習研究社)』『坂本秀夫著『教育情報公開の研究』(1997・学陽書房)』『「悠」編集部編『速解 新指導要録・教課審答申――「生きる力」の評価がわかる』(2001・ぎょうせい)』『窪田眞二・小川友次著『教育法規便覧』平成22年版(2009・学陽書房)』

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改訂新版 世界大百科事典 「指導要録」の意味・わかりやすい解説

指導要録 (しどうようろく)

小・中・高等学校および幼稚園に在学し,またはこれを卒業した者の学習および健康の状況を記録した書類。通例B4判一枚の用紙の表と裏に様式を印刷したもので,各個人別に記録する。文部省は,児童・生徒などの〈学籍ならびに指導の過程および結果の要約を記録し,指導および外部に対する証明等のために役だたせるための原簿としての性格をもつもの〉と説明している。指導要録という呼称が用いられるようになったのは1949年のことであり,それ以前は,1881年文部省達〈学事表簿取調心得〉によって初めて定められて以来学籍簿と呼ばれていた。戦前の学籍簿は戸籍簿的性格が濃い。今日の指導要録は,学校教育法施行規則(省令)に規定されている学校備付け表簿の一つであり,児童等が進学した場合には,校長は当該児童等の指導要録の抄本を作成し,進学先の校長に送付することになっている。指導要録は,通信簿や内申書の原本で,保存期間は20年と定められている。
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百科事典マイペディア 「指導要録」の意味・わかりやすい解説

指導要録【しどうようろく】

小・中・高等学校(および幼稚園)に在学する各児童・生徒について,校長の責任で作成される記録。1900年以来行われてきた学籍簿の戸籍簿的性格を改め,1949年改称された。文部省の定める現行の記載事項は,学籍,出欠,健康,学習,行動・性格,進路など。通知表内申書の原本であり,小・中・高校の間に一貫性をもたせ,作成校に20年間保存,進学先に抄本が送付される。

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知恵蔵 「指導要録」の解説

指導要録

公簿として、各小・中・高等学校において備えておくことが法的に義務付けられている児童生徒の学籍(生年月日、現住所、保護者、入学前の経歴、入学・編入学・転入学、転学・退学、卒業、進学先など)及び指導に関する記録。学籍に関するものは20年間、指導に関するものは5年間保存する。文部科学省の示す参考案に照らして各教育委員会が決める。学習指導要領が改訂されるたびに指導要録も改訂されている。2002年度から「生きる力」の育成などを目標とする新学習指導要領の小・中学校での全面実施に伴い、指導要録は学習の評価を絶対評価に一本化する方向で改訂された。

(新井郁男 上越教育大学名誉教授 / 2007年)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「指導要録」の意味・わかりやすい解説

指導要録
しどうようろく

学校の児童,生徒の学習および健康の状況を記録した書類の原本。児童,生徒の在籍する学校の校長はその作成の義務を負い,転学,進学などの際は抄本,写しを送付し,常に指導に資するとともに各種の証明に用いられる。学校における保存期間は 20年とされ (学校教育法施行規則) ,学校が廃止された場合の保存についても規定されている (同法施行令) 。

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世界大百科事典(旧版)内の指導要録の言及

【通信簿】より

…文部省は1941年,国民学校の児童について〈通信簿ノ成績ノ記入方法ハ学籍簿ニ準ズルコト〉と通牒した。今日の通信簿が指導要録をもとに作成・記入されている慣行は,ここにはじまるといってよい。通信簿においてよく問題となる成績の記入方法については,文部省が様式を示している指導要録が5段階相対評価を採用しているため,通信簿にもこれを踏襲している学校が多い。…

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