山姥(妖怪)(読み)やまうば

日本大百科全書(ニッポニカ) 「山姥(妖怪)」の意味・わかりやすい解説

山姥(妖怪)
やまうば

山中に住む妖怪(ようかい)。女の姿で出現すると信じられ、昔話や伝説に里人との交流を語られる。山婆(やまんば)、山母、山女郎、山姫などの呼称をもつ。昔話「山姥の糸車」には白髪の老婆、「牛方(うしかた)山姥」「三枚の護符」には口が耳まで裂けた眼光鋭い、人食い化け物として造形されている。一方、山中の石に6人または12人の子を産み、乳を与える、柔和で豊かな母性を有する姿も伝えられる。箱根山で金太郎を扶育する山姥や、応神(おうじん)天皇の山中出誕を介助する山姥などは、幼い者を加護して祝福を与える顕著な例である。山姥はときに里に降りて、年の市(いち)などに現れ、心清い者に思いがけない富貴を授けるともいわれる。昔話「糠福米福(ぬかぶくこめぶく)」「姥皮(うばかわ)」では主人公に幸運をもたらす。山姥の伝承は、このように荒ぶる怪奇なものと、至福扶与の両面を持ち合わせる。炭焼き、木こり、木地(きじ)師、漆かきなどは、不意に山小屋を訪れて酒を飲み、焼き餅(もち)を食い、火にあたる山姥の存在を伝承している。山姥は藤(ふじ)の皮で草履(ぞうり)を編んだり、糸を操って機織(はたお)りをする。また布を滝や流れに晒(さら)し、洗濯をして岩に干す。壱岐(いき)では、師走(しわす)の20日を山姥の洗濯日とし、その日に水を使うことを忌む。同時にこの日はまた山の神の洗濯日ともよばれる。これは、かつて山の神の祭祀(さいし)に奉仕した女性と、その斎場での行為にかかわるものとされる。また山の神そのものが女性神とされる信仰とも無関係ではない。現実的には、里人の暮らしと異なる山中生活者の存在も見落とせないものである。

野村純一

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例