屍鬼二十五話(読み)しきにじゅうごわ

改訂新版 世界大百科事典 「屍鬼二十五話」の意味・わかりやすい解説

屍鬼二十五話 (しきにじゅうごわ)

トリビクラマ王の冒険を枠物語として,その間に約25の物語(伝本により物語の数は若干異なる)を含む代表的なインドの説話集原題は《ベーターラ・パンチャビンシャティカーVetālapañcaviṃśatikā》。ベーターラVetāla(屍鬼)は人間の死体に憑いてこれを活動させる鬼神であり,仏典中でもしばしば言及されているが,シバ教においてはシバ眷属の一つとみなされた。本書においては,このベーターラが,主人公である王に謎を伴う約25の物語をし,各物語の最後で王に質問をし,王がそれに対して答えるという形式をとっている。諸伝本が残っているが,なかでも11世紀のカシミールの詩人ソーマデーバSomadevaの作品が文学的に最も優れているとされる。本書はインドの内外に伝わり,多大の影響を与えた。特に〈首のすげかえ〉の物語はゲーテ(《パリア》の〈聖譚〉)に着想を与え,またトーマス・マンはこの物語に基づいて短編小説《すげかえられた首》を書いた。
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世界大百科事典(旧版)内の屍鬼二十五話の言及

【説話文学】より

…これらの大説話集の流布は説話文学の流行を促し,小規模の娯楽的,通俗的な説話集が多く作られた。《屍鬼二十五話(ベーターラ・パンチャビンシャティカー)》は,数種の異本によって伝えられてひろく伝播し,チベット語や蒙古語にも翻訳されている。《鸚鵡七十話(シュカサプタティ)》も原本は失われ,原作者も年代も不明であるが,サンスクリットの2種の異本が伝わっている。…

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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」