妊娠に伴って生じる異常

内科学 第10版 「妊娠に伴って生じる異常」の解説

妊娠に伴って生じる異常(妊娠と腎)

(1)妊娠高血圧症候群
(pregnancy-induced hyper­tension,gestational hypertension) 妊娠高血圧症候群は20週以降,分娩後12週まで高血圧がみられる場合,または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで,かつこれらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によるものではないものと定義されている(Sato,2003).表11-11-1に示すようにいくつかの病型に分類されており,この中で,妊娠高血圧腎症(preeclampsia)と妊娠以前より腎症もしくは高血圧が存在していたときに,妊娠の継続,胎児の成長,出産に関して大きな問題となる.
a.妊娠高血圧腎症(preeclampsia)
 従来妊娠中毒症とされていたものがこれにあたる.この妊娠高血圧腎症に関して最近急速に解明が進んでいる.
病態生理
 図11-11-2に示したように正常妊娠では胎盤の血流量が充分に保持される結果,血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)や胎盤増殖因子(placental growth factor:PlGF)は正常のレベルに保持され,血管内皮機能も正常に保たれる.一方,妊娠高血圧腎症状態では胎盤形成時に生じる血管に異常トロホブラスト(絨毛細胞)侵入が不適切に侵入する結果,螺旋動脈が太い血管に変わることができなくなり,虚血が生じると考えられている.虚血にさらされた胎盤では,多くの血管作動物質が産生され放出される.soluble fms-like tyrosine kinase-1( sFlt-1 )が妊娠高血圧腎症の病態の中で,現在最も重要視されている.それ以外にもトロンボキサンやアンジオテンシンタイプ1受容体に対する抗体も関連しているとされている.その結果VEGFやPlGFが低下し内皮機能が保持できなくなりそれがNOの産生低下やエンドセリンの増加,酸化ストレスの亢進が起こり,腎臓での何らかの異常とともに全身血管抵抗が増加し高血圧となり妊娠高血圧腎症が起こると考えられている.
病理
 妊娠高血圧腎症ではいわゆる純粋の妊娠腎といわれる所見を呈するものは少なく,多くは何らかの一次性腎疾患と考えられる腎病変が重なっている.妊娠高血圧腎症に特徴的とされる所見は糸球体が腫脹しておりメサンギウム細胞の増殖性変化は認められない.同様に内皮細胞とメサンギウム細胞は膨化している.さらに腫脹した糸球体基部は近位尿細管のところにヘルニアのように入りこんでいることも認められる.電子顕微鏡所見では内皮細胞の膨化と空胞化があり,これにより毛細血管腔が狭くなり,ときに閉塞した状態になっている(Pollakら,1960).
治療
 いくつかの降圧薬を用いても血圧が十分にコントロ-ルされることは少ない.したがって妊娠高血圧腎症の治療は妊娠の終結からとされている.[鈴木洋通]
■文献
Chapman AB: The structure-function relationship in preeclampsia. Kidney Int, 54: 1394-1395, 1998.
Noris M, Perico N, et al: Mechanisms of disease: preeclampsia. Nature Clinical Practice Nephrology, 1: 98-114, 2005.
Sato K: 新しい“妊娠中毒症”の分類と定義について.日本妊娠中毒症学会誌,11: 15-44, 2003.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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