日本大百科全書(ニッポニカ) 「国家独占資本主義」の意味・わかりやすい解説
国家独占資本主義
こっかどくせんしほんしゅぎ
state monopolistic capitalism 英語
staatsmonopolistischer Kapitalismus ドイツ語
capitalisme monopoleur d'État フランス語
資本と生産を高度に集中した少数の独占資本が支配するに至っている資本主義の独占資本主義の段階においては、戦争や長期不況などの経済体制の「危機」を管理するために、全面的に国家の制度的・政策的な介入が行われるようになった。このようにして成立した国家と資本主義体制との「融合」体制を国家独占資本主義という。国家独占資本主義ということばは、第一次世界大戦下の資本主義体制の発展傾向を示すものとして、ロシアの革命家レーニンによって、「戦時国家独占資本主義」体制という意味で用いられた。さらにソビエト社会主義体制の出現、1930年代の長期不況などにより、資本主義体制の解体と動揺が進む一方で、いわゆるケインズ的経済政策など資本主義経済への政策的介入や補整が広く制度化されていくに伴って、国家独占資本主義体制が先進資本主義経済の一般的な特徴となっていったのである。つまり国家独占資本主義とは、私的市場経済を基本制度とする資本主義が、その独占的発展段階において、資本主義的市場体制の(戦争や不況という)危機的状況を克服するために、国家の政策的介入と補整を全面的に求めた結果として登場する公私混合的な二重経済体制の、マルクス経済学からする命名なのである。
ここから国家独占資本主義とは、資本主義の全般的危機の時代に、独占資本の支配体制を維持・存続するために採用される国家の権力と経済力の利用形態とみなされ、その究極的な本質は、国家財政や金融政策などの国家の政策機能や制度による独占利潤の確保にある、とされる。そしてまた国家独占資本主義は、すでに「死滅しつつある資本主義」としての独占資本主義の政策的延命策である限り、その体制のもとでは国民大衆に対する支配と収奪が強まり、軍事経済化と経済活動の停滞化と腐朽化が進むと批判される。
資本主義体制のもとで国家による経済への政策的介入や規制などの制度化が広く進展したのは、第二次世界大戦以降である。しかし、以上のようなマルクス経済学の大方の予想に反して、戦後の資本主義経済は持続的に成長したという現実を背景に、今日、国家独占資本主義概念は再検討を迫られている。まずこのような国家独占資本主義説では、戦後の日本などの非軍事的経済発展の事例を説明できないし、戦後の経済成長によってもたらされた物質的豊かさも正当に説明できない。
より根本的には、レーニン流の「独占資本主義(=帝国主義)論」だけでは、現代の資本主義の産業構造や企業組織の多面的な発展形態を十分に解明できないように思われるし、また現代の政策や介入の諸制度のもつ役割を「独占資本の利潤実現の手段」と一面的に規定しえないという問題もある。国家の経済機能が私的独占資本のために役だっていることは否定しないとしても、他面では福祉的改良や経済安定の制度として機能している側面もあることは無視できないであろう。
[吉家清次]
『『さしせまる破局、それとどうたたかうか?』(レーニン全集刊行委員会訳『レーニン全集第25巻〈1917〉』所収・1957・大月書店)』▽『大内力著『国家独占資本主義』(1970・東京大学出版会)』▽『正村公宏著『現代の資本主義』(1977・現代の理論社)』▽『大内秀明・柴垣和夫編『現代の国家と経済』(1979・有斐閣)』