名取川(狂言)(読み)なとりがわ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「名取川(狂言)」の意味・わかりやすい解説

名取川(狂言)
なとりがわ

狂言曲名出家狂言比叡山(ひえいざん)で受戒をした遠国の僧は、きたい坊とふしょう坊という二つの名をつけてもらうが、物覚えが悪いのでそれぞれ両袖(そで)に書き付けて帰途につく。道中、この名を平家節や踊り節などの節にのせて口ずさみながら行くうち、大河に行き当たる。歩いて渡ろうとするが、深みにはまってずぶぬれになり、袖に書いた名前が消えてしまう。流れたわが名をすくおうと謡いながら笠(かさ)ですくっているところへ、在所の者が通りかかる。川の名は名取川、男の名は名取の何某(なにがし)と聞き、名前をとられたと思った僧は、名を返せと詰め寄る。困惑した男が希代(不思議)なことをいう人じゃというのできたい坊を、不祥(不運)な所へきかかったというのでふしょう坊を思い出し、喜んで謡って終わる。川尽くしの小舞謡をはじめ歌舞の要素を豊富に盛り込んだ楽しい曲。仙台の南を流れる名取川は、古来歌枕(うたまくら)としてよく知られていた。

[林 和利]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例