同心円硬化症(Baló病)

内科学 第10版 の解説

同心円硬化症(Baló病)(脱髄疾患)

概念
 Baló病(同心円硬化症)はきわめてまれな炎症性脱髄疾患であり,1927年にBalóによりencephalitis periaxialis concentrica(同心円性軸索周囲性脳炎)として報告されたことに始まる.病理学的に脱髄部分と髄鞘残存部分が同心円状または層状に分布する特徴がある.病因は不明であるが,多発性硬化症や炎症性広汎硬化症(Schilder病)の類縁疾患と考えられている.
疫学
 きわめてまれな疾患であり,文献検索でもその報告例は100例をこえないものと考えられ,日本での定型例の報告もない.しかし,フィリピンや中国では10~15症例の発症の報告があり,特定地域や時期での多発が注目されている
病理
 肉眼的には大脳白質に半球性に壊死性病変を認める.病巣は浮腫性変化や小出血を伴い,ときに海馬回や小脳扁桃にヘルニア所見を認める.脊髄に病変を認めることはまれである.
 髄鞘染色で脱髄部と髄鞘残存部が交互に同心円状,層状,あるいはロゼッタ状に分布している(図15-9-7).通常,大脳皮質には病変は及ばず,同心円構造は皮質近傍では皮質を避けるように変形している.病巣内ではリンパ球,大型単核細胞および形質細胞が血管周囲性に認められ,脱髄部を中心に肥大アストロサイトやマクロファージが観察される.これらの脱髄の組織学的所見は基本的に多発性硬化症に類似している.
臨床症状
 通常20~50歳の若年成人に頭痛や発熱についで急性に異常行動,感情鈍麻,痙攣,言語障害,歩行障害が起こる.急性の発症のためしばしば脳血管障害と間違われることがある.経過は単相性で,再発寛解を示さず,種々の大脳症状,すなわち片麻痺,痙性四肢麻痺,大発作型痙攣,失禁,嚥下障害,無動性無言,除脳硬直,除皮質姿勢などを呈して発症後2週間から7カ月の経過で死亡する例が多い.
検査成績
 髄液検査では圧や細胞数は通常正常であるが,少数例で赤血球を含めた細胞数の増加や蛋白量の上昇を認める.CTでは大脳白質に限局性の低吸収域を認め,ときに増強効果が陽性である.[糸山泰人]
■文献
Compston A, et al eds: McAlpine’s Multiple Sclerosis, 4th ed, Churchill Livingstone Elsevier, Philadelphia, 2006.
糸山泰人:変わりつつある疾患の概念-視神経脊髄型多発性硬化症(OSMS)と視神経炎NMO)-.Annual Review神経,2008: 238-245, 2008.
Misu T, Fujihara K, et al: Loss of aquaporin 4 in lesions of neuromyelitis optica: distinction from multiple sclerosis. Brain, 130: 1224-1234, 2007.
Vinken PJ, Bruyn GW, et al eds: Handbook of Clinical Neurology: Demyelinating Disease 47, Elsevier Science Publishers, Amsterdam, 1985.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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