日本大百科全書(ニッポニカ) 「司法」の意味・わかりやすい解説
司法
しほう
judicial function
形式的には、裁判所の権限とされている事項をいい、実質的には、立法、行政に対し、個々の具体的争訟を解決するため、公権的な法律判断を行い、法を適用する国家作用をいう。司法の範囲は国によって異なり、イギリス、アメリカ合衆国においては、具体的な争訟に法を適用するいっさいの作用を意味する。すなわち、民事、刑事の裁判のほか、公務員の行為の適法性に関する争訟も含まれる。これを司法国家主義という。これに対して、ドイツ、フランスにおいては、民事、刑事の裁判についてだけ権限をもち、行政事件に関する争いは行政権と結び付いた行政裁判所の権限に属し、司法の範囲外であると考えられている。これを行政国家主義という。日本では、明治憲法下においてはドイツに倣って行政国家主義をとっていたが、日本国憲法では司法国家主義を採用し、民事、刑事の裁判と行政事件の裁判が司法に包含された。
[池田政章]
裁判・裁判所
司法を担当する国家機関は裁判所である。日本の裁判所は、最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所からなり、特別裁判所(たとえば軍法会議や皇室裁判所)の設置は禁止されている。
裁判所は、裁判の公正を維持し、訴訟当事者の人権を尊重しなければならないが、それを維持するため、裁判手続についての重要な原則がある。裁判公開の原則がそれであり、暗黒裁判や秘密裁判を否定する趣旨に基づいている。明治憲法もこの原則を規定はしていたが、実際には例外が広く認められていた。予審は非公開で、弁護人の立会いも認められなかった。また大逆事件の例にみられるように、秘密裁判が実際に行われたこともあった。
日本国憲法は、そのようなことがふたたび起こることのないように、公開の停止について厳格に制限し、とくに政治犯罪、出版犯罪、人権が問題となる裁判は、つねに公開しなければならないと定めた(82条2項)。裁判の公開主義を保障するために、傍聴の自由、報道の自由が認められているが、そのために法廷における審理の進行が阻害されたり、訴訟関係人の利益が不当に害されたりすることは許されない。
[池田政章]
司法のあり方と民主的統制
司法のあり方としては、司法権の独立を強化すると同時に、国民主権主義の原則に基づき、司法に対していかに民主的にコントロールするかが不可欠の問題となる。このことは最高裁裁判官の国民審査制度に端的に現れているが、弾劾裁判所による罷免の制度も同じ趣旨をもつものである。また、国民が地方裁判所において、法定刑の重い重大犯罪の審理に裁判員として参加する制度(ドイツの参審制度に類似し、アメリカの陪審制度とは異なる)が、2009年(平成21)から実施されている。裁判はなによりも人権の保障に仕えるものでなくてはならないが、そのためには国民の不断の監視が必要であることはいうまでもない。現在、長期間にわたる裁判によって、人権の回復が敏速に行われえないという実情が指摘されているのはその一例であるが、裁判員制度は解決策の一つとして期待されている。
[池田政章]
『笹田栄司著『裁判制度』(1997・信山社出版)』▽『市川正人・酒巻匡・山本和彦著『現代の裁判』第5版(2008・有斐閣)』