古・往古(読み)いにしえ

精選版 日本国語大辞典 「古・往古」の意味・読み・例文・類語

いにし‐え ‥へ【古・往古】

〘名〙 (「往(い)にし(へ)」の意。時間の経過を観念にもつ)
① 久しい以前。過ぎ去った時。往時
万葉(8C後)二〇・四四六七「劔太刀いよよ研ぐべし伊尓之敝(イニシヘ)ゆさやけく負ひて来にしその名そ」
② 過去の事。過去の事跡。過去の経歴
※万葉(8C後)三・二六六「淡海の海夕浪千鳥汝が鳴けば情(こころ)もしのに古(いにしへ)思ほゆ」
亡き人故人
源氏(1001‐14頃)宿木「いにしへの御許しもなかりし事を。かくまで漏らし聞ゆるも」
[語誌](1)「いにしえ」と「むかし(昔)」とは同じ意味にも用いられているが、しかし、基本的にはとらえ方に違いがあるとみられる。「いにしえ」は、「往にし方」の原義が示すように、「時間的」にものをとらえる場合に用いて「今」と連続的にとらえられるのに対して、「むかし」は、そのような「過ぎ去る」という時間的経過の観念が無く、「今」とは対立的に過去をとらえる場合に用いる。
(2)語源的には、「過ぎ去った昔」の意で、直接に体験していないはるか以前について使われることが多い。これに対して「むかし」は、奈良平安時代を通して、直接体験した懐かしく、忘れがたい、近い過去を多く意味した。
(3)鎌倉時代以降になると、はるか以前を意味する「むかし」が急増し、「いにしへ」の意味領域を侵していった。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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