保険の用語(読み)ほけんのようご

日本大百科全書(ニッポニカ) 「保険の用語」の意味・わかりやすい解説

保険の用語
ほけんのようご

*印は別に本項目があることを示す。


アクチュアリー* actuary
 保険に関する数理の専門家。保険数理人ともいう。保険数学、確率統計を基礎として保険料、責任準備金などの基本的な事項の計算のほか、保険経営に関しての長期計量予測、財政検討などの職務を行う。主として生命保険分野で活動する。

医的診査(いてきしんさ)
 生命保険に加入する際に、保険会社の定める医師が被保険者の過去の病歴や現在の健康状態などを診査することをいう。保険契約を引き受けるか否かを決定するための選択基準にされる。

解約返戻金(かいやくへんれいきん)*
 保険契約の解約、失効、解除などの場合に、保険者から保険契約者に払い戻される金額。

危険(きけん) risk
 保険用語としての危険は多義に用いられている。そのおもなものをあげると次のとおり。

(1)収支の不均衡を招くような偶然的なできごと。「危険なければ保険なし」という場合の危険。

(2)偶然事故そのもの。死亡・火災・沈没などの現実化した事故。

(3)損害の発生を内蔵する具体的状況。危険状態という。

危険の選択(きけんのせんたく)
 保険者が、保険契約の引受けにあたり、危険状態について個別に具体的に調査し、良質の危険を選択し、不良な危険を避けることをいう。契約の選択ともいう。

逆選択(ぎゃくせんたく)
 保険者にとって好ましくない保険事故発生の可能性の高いものほど、保険契約者が保険をつけたがる傾向がある。これは、保険者が行う危険の選択と反対の傾向なので逆選択という。逆選択のため危険が集中すると、大数の法則に基づく収支均等の原則が崩れるので、逆選択の防止は保険経営上重要である。

共済(きょうさい)*
 共済とよばれるものには多種多様なものがあるが、一般的には、一定の者が集まって掛金を拠出し、そのなかで事故(火災・死亡・病気等)にあった者がいるときに拠出された掛金のなかから補償するというものをいう。共済のなかには保険と実質的に異ならないものもあるため、共済のうちで、共済掛金が事故発生の可能性(危険)に応じて支払われる共済に保険法を適用するとしている。

クーリング・オフ* cooling-off
 保険業法は、保険契約の申込みをした者または保険契約者は一定の期間または一定条件のもとで保険契約の申込みの撤回または契約の解除を行うことができるとしている。販売人の攻撃的な売込みにより心理的な圧迫を受けて冷静さを失って契約の申込みを行いまたは契約を締結した者を保護しようとするものである。

契約者配当(けいやくしゃはいとう)
 決算で生じた剰余金を保険契約者に分配する制度。生命保険の場合は、保険料計算の基礎となっている予定死亡率、予定利率、予定事業費率と、決算による実際の支出との間の差を死差益利差益費差益といい、この三つの差益が配当として契約者に還元される。損害保険の場合は、満期返戻金付きの損害保険契約に限って、保険期間満了契約に対し、利差益が配当として支払われる。

告知義務(こくちぎむ)*
 保険契約の締結に際して、保険契約者または被保険者が保険者に対し、危険測定上で重要な事実を告げ、また、重要な事項について真実を告げなければならないことをいう。保険法は、保険者の質問にこたえるだけの応答義務としている。

告知妨害・不告知教唆(こくちぼうがいふこくちきょうさ)*
 告知妨害とは、保険者のために保険契約締結の媒介を行う者(保険媒介者)が保険契約者または被保険者が告知事項を告知しようとしているときにこれを妨げること。不告知教唆とは、保険媒介者が保険契約者または被保険者に対して、告知事項の告知をしないようまたは不実告知をするように勧めることをいう。

再保険(さいほけん)*
 保険会社(元受保険会社)が保険契約によって引き受けた保険契約上の保険責任の一部または全部を他の保険会社(再保険会社)に転嫁すること。その役割はおもに元受保険会社の危険を再保険会社に分散することにある。元受保険会社が再保険会社に再保険に出すことを出再保険または売再保険といい、再保険会社が再保険の引受けを行うことを受再保険または買再保険という。

自殺免責(じさつめんせき)*
 被保険者の自殺における死亡事故については保険者は保険金支払責任を負わないこと。多くの生命保険会社の保険約款では、保険者の責任開始日から2年または3年以内の被保険者の自殺に限定して保険者を免責としているが、保険法ではこのような限定はしていない。

支払備金(しはらいびきん)
 事業年度末において、すでに保険事故は発生しているが、未請求、調査未了、あるいは訴訟中などの理由によって保険金や解約返戻金などの支払いが行われていない契約のために積み立てられる準備金。

小損不担保(しょうそんふたんぽ)
 保険者が填補(てんぽ)の責を負うべき損害が生じた場合にも、その損害が一定の限度に達しないときは、保険者が免責されること。小損免責ともいう。この制度があるのは、あまりに小額の損害または費用を填補するのは保険者に費用と手数を多くかけ、保険料率にも影響を及ぼし、結局、保険契約者にも不利となるからである。

責任準備金(せきにんじゅんびきん)
 保険業法に基づいて、保険会社が、将来発生する保険金や解約返戻金の支払いなど保険契約上の責任に対応するため、毎決算期に保険種類ごとに積み立てる準備金。

大数の法則(たいすうのほうそく)*
 特定の事象が起こるのは、個々の場合には偶然であっても、大量観察によると一定の安定的な傾向が認められるという法則。保険は、この大数の法則に裏づけられた危険率に基づいて算出された保険料を原資とする経済的仕組みである。

通知義務(つうちぎむ)
 保険契約締結後、保険契約者または被保険者が保険者に対し、危険の増加や変更、損害の発生など、一定の事項について通知すべき義務のこと。

道徳的危険(どうとくてききけん)* moral hazard
 保険契約者の心理作用や動機に関連する危険で、主観的危険、人為的危険、モラルハザードともいう。実体的危険または客観的危険に対立する危険であり、たとえば、保険契約者が、故意の保険事故招致や保険事故の発生を仮装して不正に保険金請求を行おうとする意図や心理作用をいう。

賠償責任保険(ばいしょうせきにんほけん)*
 被保険者が交通事故などの加害行為によって第三者に損害を与え法律上の損害賠償責任を負担することにより被保険者が被る損害を填補する保険。この保険は、被保険者の保護とともに間接的ではあるが被害者をも保護するという機能を有する。

払済保険(はらいずみほけん)
 生命保険契約において、契約者の事情により保険料の払込みを中止する場合、そのときの解約返戻金をもとに一時払保険料を算定し、新たに保険金額を定めて契約の存続を図る制度。保険期間は原契約のままで、保険種類も同じまま保険金額を減じる場合と、養老保険へ種類を変更する場合とがある。各種特約は、払済変更手続終了時点で消滅する。

半面的強行規定(はんめんてききょうこうきてい)*
 保険法では、保険契約者(被保険者)の保護のために必要と思われる規定を定めるとともに、この規定を保険契約者(被保険者)に不利益になるような特約をしても無効であるとしている規定。半面的強行規定は、保険契約者(被保険者)を保護するために適切であるが、他方では保険制度の発展を妨げるという側面をも有している。

被保険者(ひほけんしゃ)*
 損害保険契約では、被保険利益をもち、保険事故が発生したとき、保険金の支払いを受ける者。生命保険契約では、その人の生死が保険事故となる者。

被保険利益(ひほけんりえき)*
 損害保険契約は損害の填補を目的とするから、それが有効に成立するためには、損害を受けるおそれのある利益が存在することが必要である。この利益が被保険利益であり、経済的利益であることを要する。生命保険契約には被保険利益という要素はない。

標準下体(ひょうじゅんかたい)
 生命保険会社では、被保険者の性格、家族歴、既往症、現症などが死亡率に及ぼす影響を統計的に調べ、超過死亡指数で査定基準を作成し、この査定基準における指数を点数として危険の評価を行うという方法をとっており、評点が一定の範囲を超える危険体を標準下体という。標準下体者については、標準保険料率に加えて超過危険に応じた保険料率を課すことによって保険契約が可能になる。

変額保険(へんがくほけん)*
 保険会社が保険料積立金(保険会社が保険契約に基づいて約束した支払いを果たすために、保険料のなかから積み立てる金額)を一般勘定から区分された特別勘定のもとで、おもに株式や債券などの有価証券によって運用し、その運用実績に応じて満期保険金や解約返戻金が変動する生命保険商品。

保険価額(ほけんかがく)*
 損害保険契約における被保険利益の評価額であり、保険事故が発生した場合に被保険者が被るべき損害の最高限度額である。

保険期間(ほけんきかん)
 保険者が保険事故につき保険責任を負うべきことを約束する一定期間のこと。危険期間または責任期間とよぶこともある。保険期間は保険契約でこれを定めるのが原則である。

保険金(ほけんきん)*
 保険事故が生じたとき(生命保険の場合)または保険事故による損害が生じたとき(損害保険の場合)に、保険契約に基づいて保険者から支払われる金銭のこと。

保険金受取人(ほけんきんうけとりにん)
 生命保険において、保険事故発生の際、保険者から保険金の支払いを受けるべき者として、保険契約者によって指定された者。保険契約者自身または被保険者のほか、第三者の場合があり、また、かならずしも1人であることを要しない。

保険金額(ほけんきんがく)
 損害保険契約においては、保険者が損害の填補として支払うべき金額、すなわち保険金の最高限度額をいい、保険価額の範囲内で定められる。生命保険契約など定額保険の場合には、保険金額と保険金とは同一の金額になる。

保険契約者(ほけんけいやくしゃ)
 保険契約の一方の当事者として、自己の名をもって保険者に保険契約の申込みをし、契約が成立すれば、保険料支払いの義務を負う者のこと。

保険事故(ほけんじこ)
 損害保険においては、保険者に損害填補義務を生ぜしめる偶然の一定の事故をいい、生命保険においては、保険者に保険金支払義務を具体化せしめる事故をいう。

保険者(ほけんしゃ)
 一定の保険事故が発生した場合に、保険金の支払いをする義務を負う者をいう。日本で私保険の保険者となることのできる者は株式会社と相互会社である。

保険年齢(ほけんねんれい)
 生命保険の保険料率で用いる年齢。この年齢は整数年齢である必要があるため、被保険者の出生の年月日から契約締結の年月日までを計算し、月日の端数が6か月未満ならば切り捨て、6か月以上ならば切り上げる方法がとられている。

保険約款(ほけんやっかん)
 保険者と保険契約者とが締結する保険契約の内容を定めたもの。同一種類の保険契約すべてに共通する一般的な契約内容の条項からなる普通保険約款と、個々の契約においてその内容を補充・変更・排除する特別保険約款とがある。

保険料(ほけんりょう)*
 保険者が危険負担という給付を行うのに対し、その反対給付として保険契約者から保険者に対して支払われる報酬のこと。保険料は、保険事故が発生したときに支払保険金にあてられる純保険料と、保険会社が保険事業の経営に要する経費等(募集費、契約管理費、保険事故等の調査費)にあてられる付加保険料から構成されている。

保険料率(ほけんりょうりつ)
 生命保険においては、基準保険金額(通常1000円または10万円)に対する保険料。損害保険においては、保険金額100円または1000円に対する保険料の額をもって表示することが多いが、保険金額別に一定保険料を定めているものもある。

免責事由(めんせきじゆう)
 保険会社は、保険期間中に所定の保険事故が発生した場合、保険金を支払う義務を負っているが、公序良俗上または保険会社の経営上、特定の事由のときには例外としてその義務を免れることになっている。これを免責事由といい、法律によって定められているものと、保険約款によって定められているものとがある。たとえば、戦争その他の変乱による場合(保険法)、保険契約者・被保険者などの故意または重大な過失による場合(同上)、地震・噴火・津波などによる場合(火災保険などの約款)などである。

[金子卓治・坂口光男]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例