パプスト(読み)ぱぷすと(英語表記)Georg Wilhelm Pabst

日本大百科全書(ニッポニカ) 「パプスト」の意味・わかりやすい解説

パプスト
ぱぷすと
Georg Wilhelm Pabst
(1885―1967)

ドイツの映画監督。チェコスロバキア(現、チェコ共和国)のラウドニッツに生まれ、ウィーンで育つ。欧米各地で舞台俳優、演出家として活躍後、1921年ドイツ映画界に入る。第一次世界大戦後の退廃した世相を描いた『喜びなき街』(1925)で一躍注目を浴びる。社会的題材を独特のリアリズムで処理する手法は、『懐かしの巴里(パリ)』(1927)、『パンドラの箱』(1929)を経てトーキー作品に至り絶頂期を迎える。『西部戦線1918』(1930)で反戦を、『炭坑』(1931)で労働者の連帯を訴え、両作品はブレヒト‐ワイルのオペラの映画化『三文オペラ』(1931)とともに代表作となった。1933年にナチス政権下のドイツを去る。第二次世界大戦後のオーストリア映画『審判』(1948)でベネチア国際映画祭監督賞を受賞しているが、1956年に引退し、ウィーンに没した。

[奥村 賢 2022年6月22日]

資料 監督作品一覧

喜びなき街 Die freudlose Gasse(1925)
心の不思議 Geheimnisse einer Seele(1926)
懐かしの巴里 Die Liebe der Jeanne Ney(1927)
邪道 Abwege(1928)
パンドラの箱 Die Büchse der Pandora(1929)
淪落(りんらく)の女の日記 Tagebuch einer Verlorenen(1929)
死の銀嶺(ぎんれい) Die Weiße Hölle vom Piz Palü(1929)
西部戦線一九一八年 Westfront 1918(1930)
三文オペラ Die 3 Groschen-Oper(1931)
炭坑 Kameradschaft(1931)
アトランティド Die Herrin von Atlantis(1932)
ドン・キホーテ Don Quichotte(1933)
役者 Komödianten(1941)
審判 Der Prozeß(1948)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「パプスト」の意味・わかりやすい解説

パプスト
Pabst, Georg Wilhelm

[生]1885.8.27. ラウドニッツ
[没]1967.5.30. ウィーン
ドイツの映画監督。ウィーンで教育を受け舞台俳優となったが,1921年ドイツ映画界へ入った。監督第2作目の『喜びなき街』 Die Freudlose Gasse (1925) で名声を得,20~30年代初期に多くのすぐれた写実的作品を発表したが,ナチスの台頭以後はふるわなかった。おもな作品『西部戦線 1918年』 Westfront 1918 (30) ,『三文オペラ』 Die Dreigroschenoper (31) ,『炭坑』 Kameradschaft (31) 。

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百科事典マイペディア 「パプスト」の意味・わかりやすい解説

パプスト

ドイツの映画監督。オーストリア出身。新即物主義映画《喜びなき街》(1925年)や,《三文オペラ》(1931年)で世界的に知られた。ほかに反戦映画《西部戦線一九一八年》(1930年),労働者のストライキを扱った《炭坑》(1931年)等がある。また,《喜びなき街》(1929年)でグレタ・ガルボを売り出し,《パンドラの箱》ではルイズ・ブルックスを〈ファム・ファタル(運命の女)〉として伝説的存在とした。

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世界大百科事典 第2版 「パプスト」の意味・わかりやすい解説

パプスト【Georg Wilhelm Pabst】

1885‐1967
ドイツの映画監督。オーストリア出身。戦後ウィーンの荒廃をフロイト的な心理描写と即物的リアリズムで描いた《喜びなき街》(1925)をはじめ,《パンドラの箱》《淪落(りんらく)の女の日記》(ともに1929)など,ドイツのサイレント映画の最後を飾る名作を発表。《喜びなき街》ではスウェーデン女優グレタ・ガルボを売り出し,《パンドラの箱》《淪落の女の日記》ではアメリカ女優ルイズ・ブルックスを永遠のバンプ,〈ファム・ファタール(運命の女)〉に仕立てた。

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世界大百科事典内のパプストの言及

【三文オペラ】より

…【岩淵 達治】
[映画化]
 1931年製作のドイツ映画。G.W.パプスト監督作品。ベラ・バラージュ,レオ・ラニア,ラディスラオ・ベイダが脚本を書いた。…

【ドイツ映画】より

…第1次世界大戦後の〈表現主義映画〉,そこから出発して国際的な評価を得たエルンスト・ルビッチ,フリッツ・ラング,F.W.ムルナウ,G.W.パプストといった監督たち,レニ・リーフェンシュタールのオリンピック記録映画によって代表される1930年代のナチス宣伝映画,そして国際的なスターとして知られるウェルナー・クラウス,コンラート・ファイト,マルレーネ・ディートリヒ,アントン・ウォルブルック,クルト・ユルゲンス,ホルスト・ブーフホルツ,ヒルデガルド・クネフ(アメリカではヒルデガード・ネフ),ロミー・シュナイダー,マリア・シェル,マクシミリアン・シェル,ゲルト・フレーベ等々の名が,〈ドイツ映画〉のイメージを形成しているといえよう。以下,第2次大戦後,東西二つのドイツに分割されて政治的対立の下に映画活動も衰退せざるを得なくなるまでの動きを追ってみる。…

【トーキー映画】より

…28年,エイゼンシテイン,プドフキン,グリゴリー・アレクサンドロフ(1903‐83)の3人の連名で,〈トーキーのモンタージュ論〉ともいうべき〈トーキーに関する宣言〉が発表された。そして,それを具体化したソビエト最初の長編トーキーであるニコライ・エック(1902‐59)監督の《人生案内》(1931)がつくられ,フランスではルネ・クレールが《巴里の屋根の下》(1931)で新しいトーキー表現を開拓し,アメリカではルーベン・マムーリアンが《市街》(1931)で音を映画的に処理し,ドイツではG.W.パプストが《三文オペラ》(1931)で新しい音楽映画の道を開いた。 その後,トーキーの技術的進歩・改善がつづき,第2次大戦後の磁気録音テープ,ワイド・スクリーンの副産物としての立体音響の登場など,トーキー映画は数々の発明とともに問題を生んで,映画史を築いていくことになる。…

※「パプスト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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