ハギ(読み)はぎ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハギ」の意味・わかりやすい解説

ハギ
はぎ / 萩
[学] Lespedeza

マメ科(APG分類:マメ科)ハギ属の総称。落葉低木または多年草。萩の字があてられているが、中国語の「萩」は元来はキク科のヤマハハコ属植物をさす。茎が木質化して直立し、よく分枝して冬季に枝先のみ枯れるものと、地上部が地際のごく一部を除いてほとんど枯れてしまうものと、地上部はすべて枯れてしまうものがある。葉は互生し、3小葉からなる複葉。托葉(たくよう)は細長く、長さ約5ミリメートル、普通は茶褐色を帯び、脱落するものもある。小葉は長さ1~5センチメートル。小葉の基部に小托葉はない。夏から秋、上方の葉腋(ようえき)に花序をつくり、数個から十数個の花を対生状につける。花は紅紫、白、帯黄白色の蝶形花(ちょうけいか)で、普通は長さ0.5~1.5センチメートル。開花時に旗弁は立ち上がり、なかには後ろに反り返るものもある。萼(がく)は中ほどから5裂するが、上方の2裂片は先端を除いて合着する。果実は扁平(へんぺい)で長さ0.3~1センチメートル、種子は1個。山野の日当りのよい所に生育し、東アジア、北アメリカの暖温帯を中心に約40種分布する。一般にハギと称されるヤマハギミヤギノハギなどは東アジア特産で、花つきがよく、閉鎖花を生じない。ミヤギノハギ、ニシキハギは庭園に栽培される。閉鎖花を生じるメドハギイヌハギなどは多年草で、アジア、北アメリカに分布する。

 なお、このほかにセンダイハギ(センダイハギ属)、ヌスビトハギ(ヌスビトハギ属)など、ハギの仲間のような和名をもつ植物があるが、これらはハギ属ではない。ヒメハギヒメハギ属)はAPG分類ではヒメハギ科とされる。

[秋山 忍 2019年11月20日]

文化史

日本は世界でもっともハギの種類が多く、万葉時代にすでに栽培されていた。『万葉集』に歌われた160ほどの植物中、ハギの歌はもっとも多く、141首を数える。その多くは野外で観賞されているが、手折られた一部は男性の挿頭華(かざし)に使われた。ところが、「白露の置かまく惜しみ秋萩(はぎ)を折りのみ折りて置きや枯らさむ」(巻10)と詠まれているように、手折った花を持ち帰り、室内でいけ、観賞する習慣はなかった。141首中、やど、植えし、植えるなどの表現とともに詠まれたのが26首あり、当時すでに家で栽培下にあったことがわかる。その動機の一つはハギをいとしい人の記念に植えることで、「恋しくは形見にせよと我が背子(せこ)が植ゑし秋萩花咲きにけり」(巻10)と歌われている。ハギの種類の区別は江戸時代に進み、『花譜』(1694)にはキハギ、ミヤギノハギ、シラハギのほか2種類あると書かれている。栽培ハギはほとんど日本産の種類だが、オクシモハギは前川文夫によって第二次世界大戦中、中国の江西省から導入された。

 萩の字をこの植物にあてるのは日本独得の表現によるもので、『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』(931~938ころ)に初見する鹿鳴草も日本であてられた漢字である。ハギの語源は「生(は)え芽(き)」説が広く受け入れられているが、小豆(しょうど)島などに残るようにハギの枝は箒(ほうき)に使われるので「掃(は)き」に由来したとも考えられる。

[湯浅浩史 2019年11月20日]

文学

「秋萩」とよばれるように、秋の代表的な景物として、早く『万葉集』から歌に数多く詠まれ、秋の七草の一つである。「さを鹿(しか)の朝立つ野辺の秋萩に玉と見るまで置ける白露」(巻8・大伴家持(おおとものやかもち))、「雁(かり)は来ぬ萩は散りぬとさを鹿の鳴くなる声もうらぶれにけり」(巻10)というように、「鹿」「雁」「露」とともに詠まれることが多い。『古今集』でも、『万葉集』以来の類型が固定し、また、「宮城野(みやぎの)のもとあらの小萩露を重み風を待つごと君をこそ待て」(恋4・よみ人しらず)により、「宮城野」の景物となり、『源氏物語』「桐壺(きりつぼ)」の「小萩がもと」の段などにみられる。『枕草子(まくらのそうし)』「草の花は」の段には、「萩、いと色深う枝たをやかに咲きたるが、朝露に濡(ぬ)れてなよなよと広ごり伏したる……」と、その風情が記されている。古代歌謡の催馬楽(さいばら)の「更衣(ころもがへ)」に、「更衣せむや さ公達(きんだち)や 我が衣は 野原篠原(しのはら) 萩の花ずりやさ公達や」と歌われた「萩の花ずり」は歌語となり、『後拾遺集(ごしゅういしゅう)』の「今朝来つる野原の露に我濡れぬ移りやしつる萩が花ずり」(秋上・藤原範永(のりなが))などと詠まれている。狂言の『萩大名』には、萩の花にちなんだ風流がみられる。季題は秋。「一家(ひとつや)に遊女も寝たり萩と月」(芭蕉(ばしょう))。

[小町谷照彦 2019年11月20日]


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改訂新版 世界大百科事典 「ハギ」の意味・わかりやすい解説

ハギ (萩)
bush clover
Lespedeza

古くから広く親しまれている日本の代表的な植物で,秋の七草の一つとしてよく知られている。古くは芽子と記し,ハギと読んだ。一般にハギと呼ばれる植物はマメ科ハギ属の中のヤマハギ節に属する数種類を含むもので,特定の種類ではなく,外観の似ている種類の総称である。ふつうにハギと呼ばれるのはヤマハギ,ミヤギノハギ,ニシキハギ,ツクシハギのことで,ときにマルバハギも含まれる。

 ハギの一般的な特徴は次のとおりである。低木または低木状の多年草で,落葉性,茎はよく枝分れするかあるいは根もとから多数に分かれて伸び,花期には枝のしだれることが多い。葉は3小葉をもつ複葉であり,小葉はほぼ楕円形,花は紅紫色で,長さ1~2cmあり,多数が穂に集まって咲き,美しい。果実は小型であまり目だたず,扁平な楕円形で,伏した短毛があり,中に1個の種子を入れる。ハギは観賞用のほかに,家畜の飼料として用いられ,また砂防のため土手や道路わきなどの斜面に植えられる。本来の生育地も日当りのよい草原,裸地,林のへりなどであるため,これに適している。民間薬として,根を乾燥して煎じて,めまいやのぼせを静めるのに効があるといわれている。葉を乾かして茶の代用とし,種子を粉にして飯に混ぜて食用とした。そのほかにも,枝を切ってほうきとしたり,垣根や屋根に用いた。また皮をはいで縄を作ったという。

 ミヤギノハギ(宮城野萩)L.thunbergii Nakaiは公園や庭などに広く植えられている多年草で,高さ2mに達し,茎はよくしだれる。小葉は長楕円形で先がとがっており,花の時期には表面は無毛。夏から秋に咲く花は紅紫色で長さ15~18mm,萼の裂片は狭卵形で,先は長く伸びてとがる。本州の日本海側地方に生育するケハギから園芸化されたもので,日本の固有種。

 ヤマハギ(山萩)L.bicolor Turcz.は日当りのよい山地の草原,林のまわりなどに生育する半低木で,高さ2mに達する。小葉は楕円形で,先はミヤギノハギほどではないが少しとがるか,円く,葉の表面は無毛または少し毛がある。花は7~9月に咲き,ミヤギノハギより小さく,長さ11~15mm。北海道から九州にみられ,朝鮮,中国,ウスリー地方に分布する。

 ツクシハギ(筑紫萩)L.homoloba Nakaiはヤマハギによく似ているが,小葉は厚質で,先はとがらず,表面にはまったく毛がない。晩夏から秋に咲く花は紅紫色で,旗弁の背側はやや白い。本州,四国,九州に分布し,日本の固有種である。

 ニシキハギ(錦萩)L.japonica Baileyはミヤギノハギによく似ており,公園や庭で広く栽培されている。日当りのよい平地から山地にふつうにみられる半低木で,ミヤギノハギと異なり茎の下部は木質で,冬も枯れずに残っており,高さ約1.5mに達する。小葉は楕円形で先はミヤギノハギほどとがらず,表面に一面に細かい毛がある。花は紅紫色で8~10月に咲き,長さ12~17mm。本州中部以西,四国,九州,朝鮮,中国に分布する。

 マルバハギ(円葉萩)L.cyrtobotrya Miq.は以上に述べたハギと異なって,花穂が短く,花があまり目だたない。小葉の先は円く,しばしばへこむ。秋に咲く花は紅紫色で,萼の裂片の先が針状に伸びている。本州,四国,九州の日当りのよい山地にふつうにはえ,朝鮮,中国に分布する。

 キハギ(木萩)L.buergeri Miq.は名のように木本のハギで,花は淡黄色で一部紅紫色であり,いわゆるハギには含まれない。

 メドハギ(目処萩)L.juncea (L.f.) Pers.var.subsessilis Miq.は草地,荒地,川原など低地でふつうにみられる多年草。晩夏から秋に咲く花は淡黄色で長さ6~7mm,葉腋(ようえき)に2~4個が集まってつき,ハギのように花穂をつくらない。閉鎖果が多い。日本全土にふつうに生育し,東アジア,ヒマラヤ,アフガニスタンに分布する。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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