スピン軌道相互作用(読み)スピンきどうそうごさよう(英語表記)spin-orbit interaction

改訂新版 世界大百科事典 「スピン軌道相互作用」の意味・わかりやすい解説

スピン軌道相互作用 (スピンきどうそうごさよう)
spin-orbit interaction

粒子スピン角運動量ベクトル軌道角運動量ベクトルのなす角度に依存する相互作用原子の中で電子が受ける平均ポテンシャル原子核の中で中性子陽子両者を総称して核子という)が受ける平均ポテンシャルおよび2核子間のポテンシャルなどにはスピン軌道相互作用が含まれている。アルカリ金属,例えばナトリウムの原子の中では,芯のまわりに比較的緩く結合された1個の電子が運動している。この電子の軌道角運動量とスピン角運動量が平行か反平行かによって,そのエネルギーはわずかに異なり,ごく接近した2重の状態をなす。ナトリウムのD線がほぼ6Å離れた2重線になっているのはこの2重構造の反映である。この構造は,芯が電子に及ぼすスピン軌道相互作用のために生ずる。原子の中の電子に働くスピン軌道相互作用は,電子の運動を相対論的に記述するディラック方程式から導き出される。電子の速度vと光の速度cの比v/cについて方程式を展開し,(v/c2の項まで求めると,電子に対する相互作用の一部として,Vr)l・sという形のスピン軌道相互作用が得られる。ここでVr)は原子の中心から電子までの距離rの関数,lとsは電子の軌道およびスピン角運動量ベクトル,l・sは二つのベクトルのスカラー積である。原子核の中の核子が核内の他の核子から受ける平均ポテンシャルに含まれるスピン軌道相互作用はかなり強く,原子核の構造に大きな影響を及ぼしている。原子核を構成する中性子,または陽子の個数魔法数と呼ばれる特殊な数に等しいときには,同じくらいの核子数をもつ他の原子核に比べてとくに安定である。このような特徴をはじめ原子核の多くの重要な性質は,平均ポテンシャル中に強いスピン軌道相互作用があるとした殻模型によって説明される。この相互作用は,2核子間のスピン軌道相互作用や同じくスピンの方向に依存するテンソル相互作用などからほぼ導き出すことができる。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スピン軌道相互作用」の意味・わかりやすい解説

スピン軌道相互作用
スピンきどうそうごさよう
spin-orbit interaction

自転の角運動量,すなわちスピンをもつ粒子が軌道運動をするとき,スピンのベクトル s と軌道角運動量のベクトル l との相対的な向きの差によって,異なるエネルギーを与える相互作用をさす。通常は (ls) の形で含まれている。原子の場合,たとえばナトリウムの発光スペクトル (→放出スペクトル ) のD線がわずかのエネルギー差で2本に分れるのは,スピン軌道相互作用のためである。また原子核の殻構造は,強いスピン軌道相互作用によって説明される。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のスピン軌道相互作用の言及

【微細構造】より

…元来は,原子の発光スペクトルにおいて,波長の接近した何本かの発光線が一群となって観測される場合,その構造を一般的に微細構造と呼んだが,現在は主として電子のスピン軌道相互作用による発光線の分裂,または同じ原因による原子内の電子のエネルギー準位の変化について用いられる。 原子内の電子は,空間的な運動による軌道角運動量L(プランク定数をhとして,h/2πを単位としてはかる)のほかスピンと呼ばれる固有の角運動量S(同じくh/2πを単位としてはかる)をもち,両者に伴う磁気モーメントの間には相互作用(スピン軌道相互作用)がある。…

※「スピン軌道相互作用」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」