ジャンク・アート(読み)じゃんくあーと(英語表記)junk art

翻訳|junk art

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジャンク・アート」の意味・わかりやすい解説

ジャンク・アート
じゃんくあーと
junk art

廃物芸術。日常生活から排出される廃材ごみを素材にしてつくられた作品やその傾向

 ジャンク・アートの創始的な手法とされるパピエ・コレは、1910~1912年ごろからブラックやピカソが始めたキュビスムの表現方法であり、新聞紙、切符、商品のレッテル、羽毛、砂、針金などを画面に貼りつけることで新しい造形効果や立体感などを絵画に導入した。それは、その後のダダシュルレアリスムの作家たちによるコラージュ作品やオブジェなどに多大な影響を与えた。また、ダダの代表的作家であるマルセル・デュシャンは、『泉』(1917)においてレディーメイド(既製品)を美術品として展示することで、ものの見方を変質させ、従来の物質への意識を破壊する行為を芸術のなかにもち込んだ。

 1919年、ドイツのハノーバーでクルト・シュビッタースがダダ運動を開始し、「メルツバウ」という自宅のアトリエを廃物などで構成した作品を制作して、のちのジャンク・アートの先駆的存在となった。

 こうした芸術そのものを否定する精神は、第二次世界大戦後の若い作家に受け継がれた。

 ジャンク・アートの代表的な作家としては、1950年代末から1960年代初頭にかけて機械の部品を駆使して大規模な立体彫刻や動く作品を制作したスイスのジャン・ティンゲリー、フランスのセザールCésar(1921―1998、本名セザール・バルディッチーニCésar Baldiccini)、アメリカのリチャード・スタンキビッチRichard Stankiewicz(1922―1983)、ジョン・チェンバレンJohn Chamberlain(1927―2011)などが知られる。

 ティンゲリーは1952年にパリに移り住んで、1955年ごろから機械の廃品を組み合わせた立体作品にモーターを仕掛けて動く彫刻(キネティック・アート)を制作しはじめた。1960年MoMA(ニューヨーク近代美術館)で巨大な自壊機械『ニューヨーク賛歌』を発表して話題を集めた。また、パリのポンピドー・センターの池に、公私ともに共同活動をしているニキ・ド・サンファールとの共作『イーゴリ・ストランビンスキーの泉』(1983)が設置されている。ティンゲリー作品は、錆びついてジャンクと化した機械が強烈な音をたてながら破壊的な運動をすることで、文明の危機感や壊滅的なイメージを想起させ、その反面、人間の叫びや喜怒哀楽を表す感情的な動きも表現し、機械的な表層でありながら感傷的な作品として評価される。

 セザールは、第二次世界大戦後のフランス彫刻界の代表的作家であり、1956年ぐらいまでは、表現主義的な昆虫や人間のブロンズ像を制作していたが、その後、廃品となった自動車を圧縮した「プレス彫刻」を制作した。

 スタンキビッチは、1948~1949年にアメリカでハンス・ホフマン、1950~1951年パリでレジェやザッキンに師事した。機械の廃品を溶接して彫刻作品を制作し、ジャンク・アートの先駆者とされる。またチェンバレンは、抽象表現主義の絵画のスタイルを彫刻に適用した色彩豊かな廃物彫刻を制作して注目を集めた。

 日本では、1960年(昭和35)に「読売アンデパンダン」展に参加した吉村益信(1932―2011)、篠原有司男(うしお)(1932― )、荒川修作、三木富雄、工藤哲巳ら「ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ」のメンバーが反社会・反芸術の姿勢を作品にしたものにこの傾向がみられる。

[嘉藤笑子]

『Jean TinguelyStillstand gibt es nicht!(2002, Prestel Verlag, München)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ジャンク・アート」の意味・わかりやすい解説

ジャンク・アート

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世界大百科事典(旧版)内のジャンク・アートの言及

【アッサンブラージュ】より

…第2次大戦後,デュビュッフェの蝶の翅の作品があり,1950年代になるとネオ・ダダ,ヌーボー・レアリスム,ポップ・アートなど幾多の動向のなかに現れてくる。工業製品の廃品を主に用いるジャンク・アートjunk art(廃物芸術)もアッサンブラージュである。アルマンArman(1928‐ ),ロテラMimmo Rotella(1918‐ ),スペーリDaniel Spoerri(1930‐ ),ラウシェンバーグ,スタンキェビッチRichard Peter Stankiewicz(1922‐ ),ネベルソン,さらにキーンホルツEdward Kienholz(1927‐94)らが,アッサンブラージュを作品の中核とする代表的美術家である。…

【ネベルソン】より

…キエフ生れ。1950年代後半から顕著になったアメリカのジャンク・アートjunk art(廃物芸術)の代表的存在。彼女は50年代になって木彫を始めたが,やがて家具など種々の木製品の廃材やその断片を集め,それらを組み合わせた作品を制作するようになった。…

※「ジャンク・アート」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」