コマンド作戦(読み)コマンドさくせん

改訂新版 世界大百科事典 「コマンド作戦」の意味・わかりやすい解説

コマンド作戦 (コマンドさくせん)

特別に訓練された小規模の部隊が敵の勢力圏内に潜入し,情報収集,後方攪乱,施設破壊,住民宣撫(せんぶ),要人誘拐,人員救出などの奇襲行動を行うことをいい,このような行動に従事する部隊を一般に特殊部隊と呼ぶ。コマンドcommandoとはもともと特殊部隊に対する総称ではなく,ボーア戦争において,少数の兵力で奇襲作戦を行い,イギリス軍を苦しめたボーア人の農民たちに付けられた名称である。これにちなんでイギリス陸軍は1940年6月4日のダンケルク撤退の直後,チャーチル首相の要請により,軽装備少数兵力で奇襲攻撃を加える部隊を編成し,コマンドと名付け,対岸の大陸沿岸に展開中のドイツ軍に奇襲攻撃を加えた。第1回は6月23日夜に行われ,フランス北岸ブーローニュのドイツ軍施設を破壊し,積極果敢な行動はイギリス国民に感銘を与えた。以後第2次世界大戦中ヨーロッパ,ビルマ(現,ミャンマー),マレー各戦線において活躍し,コマンドの行うゲリラ的奇襲行動をコマンド戦術,コマンド襲撃(作戦)と一般的に呼ぶようになり,その着用するグリーン・ベレーはコマンドの別名となった。第2次大戦中は陸軍と海兵隊の混合部隊であったが,戦後は水陸両用作戦を行うため海兵隊に編入されている。アメリカ陸軍は42年6月コマンドに相当する部隊を創設し,レンジャーと名付け,敵地潜入,長距離偵察などに任じ現在に至った。またアメリカ陸軍が42年7月創設した特殊任務部隊Special Force Group(アメリカ・カナダ混成部隊)はまもなく廃止されたが,剣と矢を交叉させた部隊記章をつけたグリーン・ベレーは,現在でもアメリカ特殊部隊の別名となっている。朝鮮戦争の勃発にともないアメリカ陸軍特殊任務部隊は復活し,国連軍パルチザン部隊となり,敵の背後に潜入しゲリラ戦を実施し,ベトナム戦争ではその活動は強化された。これらの作戦はきびしい環境条件下に行われ,強靱な体力,精神力と特殊技量を必要とし,隊員の訓練もきびしいのが特徴である。世界の各国の特殊部隊はその性質上内容が明らかでないものが多い。イスラエルの特殊部隊はヘブレヘブライ語で“野郎ども”の意)と呼ばれ,ゲリラ戦に従事するとともに,ハイジャック事件において犯人の処理,人質の救出を行っている。76年7月3日にはパレスティナ・ゲリラによりハイジャックされ,ウガンダのエンテベ空港に着陸していた航空機の乗客を解放するため,イスラエルを発進した特殊部隊は同空港に強行着陸し,乗客を奪回して世界を驚かせた。パレスティナ解放機構PLO)のゲリラ武装兵力はみずからコマンドと称し,イスラエル軍に対し奇襲作戦を行っている。日本の旧陸軍は特殊部隊をもたず,必要に応じ部隊を編成し作戦を行った。現在,陸上自衛隊にはコマンド的性格をもち部隊戦闘に携わるレンジャー部隊があり,地上および空挺レンジャー訓練終了者を部隊に配属し,捜索偵察,救出活動にあてている。
レンジャー部隊
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百科事典マイペディア 「コマンド作戦」の意味・わかりやすい解説

コマンド作戦【コマンドさくせん】

特別に訓練された小規模の部隊が敵の勢力圏内に潜入し,情報収集,後方攪乱(かくらん),施設破壊などの奇襲行動を行うことをいい,その部隊を一般に特殊部隊と呼ぶ。1940年,英国が開始し,1942年,米国もレンジャー部隊を創設した。なおコマンドcommandoとはボーア戦争の際に奇襲作戦で英国軍を苦しめたボーア人の農民たちにつけられた名称。

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